ギリシャ神話あれこれ:山羊脚のサテュロス

 
 相棒はサテュロスとサトゥルヌスとをすぐに混同する。山羊脚をした半人半獣の絵に出くわすと、
「むむッ! これってサテュロスだったっけ? サトゥルヌスだったっけ?」
 毎度、同じ疑問に立ち返り、言語を媒介し認識をたどって、正しい記憶に到着し、一人納得する。
 
 サテュロス(サティール)というのは山野に群れる精霊で、牧神パンと同じような外見と性格をしている。
 つまり山羊の毛深い脚と蹄と尾、顎髭と角(のような突起)があって、山野に住まい、ふざけたり戯れたりして暮らしている。酒を飲んでは酔っ払い、歌い騒ぎ、跳ね回り、踊り狂う。悪戯好き、女好きで、その男性器は常に興奮し、欲情と好奇心に駆られてニンフやマイナスたちを追いまわすが、襲ったところで概ね失敗する。「サチリアジス(男性色情症)」というのはサテュロスに由来する用語(ちなみに、「ニンフォマニア(女性色情症)」はニンフに由来する)。

 こんな精霊だから、酒神ディオニュソスに随伴し、マイナス(=狂乱するディオニュソス信女)らとともに、泥酔してどんちゃん騒ぎながら列をなして付き従う。
 プロメテウスが天から持ち帰った火をサテュロスが見つけ、乱舞する炎を自分の仲間と思ったか、有頂天になってキスをして、アチチと髭を焦がしたというエピソードがある。こんなふうなお馬鹿なお調子者。
 素朴で野卑で醜悪で、小心で臆病で、思慮浅く本能的で、陽気で剽軽で滑稽な野生児。徹頭徹尾脇役で、場を引き立てはするが基本的には無用で、行なうことは概ね愚行ばかり。悪さはしても、とことんまで自ら強く深く悪に走ることはできない、憎めないけれどお粗末な存在。
 
 こんな山羊脚のサテュロスは、キリスト教時代には悪魔的な精霊になった。神界に、赤ちゃん天使プットたちがプヨプヨと群れ飛んでいるように、悪魔界では、仔サテュロスたちがキャッキャッ群れ騒いでいる(多分)。
 「リボンの騎士」で、魔王の国で魔女の娘ヘケートの結婚の宴があって、ヘケートに頼まれて魔王らを騙して喜んでいたのは、酔っ払った仔サテュロスたちだった。

 画像は、カバネル「ニンフとサテュロス」。
  アレクサンドル・カバネル(Alexandre Cabanel, 1823-1889, French)

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