野球少年(続々)

 
 小学校では春に登校地区対抗の野球大会があった。

 女の子は大抵、外野手にまわされた。ボールを取っても、一番近くの男の子に渡すだけだった。男の子が中継して一塁に送球するわけ。
 私はいつも自分で一塁に送球していた。ゴロで送球するから、一塁を差してアウトを取ったことはないんだけれど。
 
 男の子たちは遊びを兼ねて野球の練習をしていたけれど、女の子たちは練習なんてイヤだ、とぷうぷう言った。仕方がないから、女の子たちだけで一度試合をしてみたら、それで練習は一切よし、ということになった。
 そうなると女の子たちはキャアキャアはしゃぎ始めた。チーム名とかキャプテンとかを決めなくちゃ、と言って。
 
 キャプテンのほうはすんなり決まったけれど、チーム名がなかなか決まらなかった。女の子のなかで唯一、野球の好きなナオコちゃんが、「“レッド・ビッキーズ”がいいナ」と言ってみた。
 「何それ」、「でも横文字だし」、「取りあえずいいかな」、「いいかも」、……ということで、その日は“レッド・ビッキーズ”という名前で落ち着いた。
 
 2、3日して、キャプテンその他の女の子たちが、そわそわしながらやって来た。
「あのね、“レッド・ビッキーズ”っていまいちだから、“フラワー・エンジェルス”に変えたからネ」

 それを聞いたナオコちゃんはげんなりしていた。そんなナオコちゃんを見た私は、“フラワー・エンジェルス”ってきっと、野球のチームにはふさわしからぬ名前なんだろうな、と思った。
 で結局、“フラワー・エンジェルズ”は一度も試合をすることはないまま解散した。

 画像は、W.ホーマー「柵に乗った子供たち」。
  ウィンスロー・ホーマー(Winslow Homer, 1836-1910, American)

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