森と湖の国

 
 最初に行く国は、森と湖の国がいいとずっと思っていた。以前、今は亡き友人が呟いたことがあるから。
「どこか、森と湖しかない国で、何かに没頭できたら最高だろうな」
 
 森と湖の国がどこにあるのか、よく分からない。でも、なぜだか北欧を想像した。

 私は北欧の空を飛んだことがある。ただし夢のなかで、だけれど。
 北欧の空は冷たく、冴えて、透明だった。濃い緑の森のなかに、ひっそりとたたずむ館があった。そこから、ピアノの音色が聞こえてくる。亡き友人はピアニストだった。
 私はその館のバルコニーに降り立った。フランス窓を開くと、部屋には懐かしい友人が立っていて、私を迎え入れた。私は彼の手を握った。
「こんなところに一人でいたの? ねえ、一緒に帰ろう」
「無理だよ。この部屋には出口がない」

 広い部屋だった。私は部屋をひとわたり見まわした。だが本当に、部屋には扉がないのだった。
「大丈夫、窓から出よう」
 私は彼の手を引っ張って、自分が今入ってきた窓からバルコニーへと躍り出た。

 To be continued...

 画像は、ガッレン=カッレラ「ケイテレ湖」。
  アクセリ・ガレン=カレラ(Akseli Gallen-Kallela, 1865-1931, Finnish)

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