野球少年(続)

 
 小学校に入学して間もない頃から、放課となると男の子たちは校庭で野球をしていた。
 シモンという野球大好き少年がいて、私もシモンに誘われて野球に参加した。まだピカピカの1年生だったとき。
 
私はなぜか、どんなボールでもバットに当てることができた。ただスイングしないので、もちろん前へは飛ばない。いつもぼてぼてのゴロ。でも運が良ければ塁に出ることができた。

 このときもバットの先っちょに、上手いことボールをポカンと当てて、すたこら一塁まで走った。私が走り出すと同時に、シモンも横で、一緒になって走った。だが半分走らないうちに、ボールは一塁に送球された。
 私はそれ以上無駄に走るのをやめて、その場に立ち止まった。ボールはすでにピッチャーに戻されていた。

 だがシモンは一塁まで走り切って、そこから私に手を振った。
「踏みなよ! ここを踏みなよ!」

 私はシモンに申し訳なくて、一塁まで走った。一塁が遠く感じられた。今さらベースを踏んでもどうしようもないくらいのルールは知っていた。
「もうとっくにアウトだぜー」
 一塁手がぶっきらぼうに言った。シモンは、「え、そうなの」と言って、しきりにちぇっ、ちぇっと舌打ちしながらホームまで帰っていった。
 ごめんねシモン、運悪くってごめんね。私は何度も心に呟いた。
 
 考えてみれば、運の良し悪しでなく、あんなせこい打ち方で塁に出ようという魂胆が間違っていたような気がするのだが、面倒くさがりの私には、素振りの練習なんか思いもよらなかったのだ。

 To be continued...

 画像は、テナント「遊戯」。
  ドロシー・テナント(Dorothy Tennant, 1855–1926, British)

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