備前焼 やきもん屋 

備前焼・陶芸家の渡邊琢磨(わたなべたくま)です。陶芸、料理、音楽、路上観察……やきもん屋的発想のつれづれです。

如月の望月

2007-02-03 00:36:29 | Weblog

寒波襲来。やっと冬が本格化したか……。

キンキンと音がしそうなその寒い夜。ほぼ満月の月が天空にある。月光に冬枯れの森が青く浮かび上がって見える。

この寒月に思い出した歌。

   ねがはくは花の下にて春死なん
            その如月の望月のころ 

出家した漂白流浪の歌人。西行さんの歌。2月の満月に桜の話。この方は、無類の桜好きというよりも、むしろ執着だな。

まぁ小生にしても、桜には想うところもある。1年のうちのホンの10日間ほどのドラマに……。蕾から散るまでのその僅かな期間に、桜への想いは常に変化する。しかし、遠くに、車窓に、眺めるだけのうちに花は散る。その散り行く様を見ると、理由なく 何故か心苦しくなってくる。「今年もまた散ってゆく」と……。一気呵成な盛り、しかし短命で、唐突な終焉。いわれのない切実さ。無常ということ。

そして、西行さんは……

   春風の花を散らすと見る夢は
             さめても胸のさわぐなりけり

夢と現(うつつ)の境界をなくして、自身の心を行き来させるという境地。小生はまだそこまでは至らない。なので、今は具体的なコチラが性にあっている。

   ひさかたの光のどけき春の日に 
            しづ心なく花の散るらむ   (紀 友則)

この寒さに 急に春が恋しくなって桜を思う。
寒月に春を待つ夜更け。