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小松基地問題研究会

感想『ヒトラー暗殺計画・42』

2015年10月04日 | 読書
感想『ヒトラー暗殺計画・42』

(ヴィル・ベルトルト著、社会評論社 訳:田村光彰他 2800円+税 2015年8月31日発行)

 400ページのとても厚い本である。インターネット上の解説では、「いくつかの偶然が、ヒトラーの命を永らえてしまった。ナチス政権下で試みられた42件の暗殺事件。ヒトラーを暗殺しようとした人々には、著名な人々も無名な人々も、軍人や市民も、狂信的な人々や空想家も、聖職者や大学教授も、カトリックの信者も共産主義者も、素人や冒険家も、また実力行動派の人も夢想家もいた。外交官が大胆で向こう見ずな人間に変身し、平和主義者が軍事力を用い、迫害されていた人々が、今度は逆に独裁者に狙いを定め始めた」と書かれている。

 では、訳者たちはなぜこの分厚い本を翻訳しようと思ったのだろうか。
 訳者あとがきには、2015年政治の焦点となった安保法強行と集団的自衛権容認について、安倍や麻生を批判したうえで、「本訳書は、上からの支配に抗し、下からの沈黙、服従を拒否した人々の物語である。支配と服従に屈しなかった人々の苦悩と行動への決断の記録である。自らの命と健康をさしだし、勇気をもって抵抗した人々の足跡である」と、ヒトラー暗殺計画を肯定的に見ている。

 昨今の日本の政治を見ると、原発再稼働や安保法制強行採決、集団的自衛権の容認など、既存の憲法秩序を破壊する政治が展開されている。ヒトラー暗殺計画をめぐる本書を、いまの時点で出版することの意味を積極的に考える必要がある。

 たとえば、2001年の9・11ツインタワービル事件を、イスラムによるこの事件がなぜ起きたのかを考察することもなく、世界中は「テロ」として非難してきた。アメリカはイラクフセイン政権を「テロ」の温床として、軍事力で瓦解させ、またシリアアサド政権を解体しようとしている。中東のバランスが崩れ、イスラム国が形成され、人々はアメリカによる中東支配介入に「ノー」を突きつけている。

 日本政府だけではなく、メディアも左翼政党もこぞってイスラム国批判に熱中し、事態を呼び起こしたアメリカ(日本も)の行動には目をつぶっている。

 国内に目を転じると、原発再稼働を強行する政府を見て、民主主義が崩壊していると感じた青年によって、首相官邸ドローン事件が引き起こされた。青年は右からも左からも批判にさらされている。

 このささやかな再稼働抗議に、石川県平和運動センターは「(官邸『ドローン』は)反原発運動を推進するものやフクシマと共に支援・連帯の取り組みを行うもの、被ばく・健康問題を取り組んでいるものとはまったく『無縁』の、一種の『テロ』行為であると断罪します。…運動を停滞させ妨害する何ものでもなく、犯罪行為に等しいもの」と声明している。

 世界中の右も左も「テロ」非難の大合唱のなかで、ヒトラー暗殺を積極的に検討対象として措定する本書が、日本で翻訳・出版されたことに、快哉を叫びたくなる。まさに、海外での武力行使を合法化したいま、1932年 1月李奉昌による天皇暗殺未遂事件、同年4月尹奉吉による上海爆弾事件を近代日本史の中にしっかりと位置づけ、これから始まろうとしている戦争と弾圧の時代をたたかうために、本書が届けられた。
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