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小松基地問題研究会

20221101 『第3次世界大戦は、もう始まっている』を読む

2022年11月01日 | 読書
 20221101 『第3次世界大戦は、もう始まっている』を読む

 エマニュエル・トッド著『第3次世界大戦は、もう始まっている』(2022/6)には、①「第3次世界大戦は、もう始まっている」(2022/3)、②「ウクライナ問題をつくったのはロシアではなくEUだ」(2017/3)、③「ロシア恐怖症は米国の衰退の現れだ」(2021/11)、④「ウクライナ戦争の人類学」(2022/4)の論考が掲載されています。

トッドは、どんな人?
 フランス人で、「共産主義という不条理な体制」と言って、共産主義を嫌悪し、同時に「不平等が大きく広がっている国」(167)、「金権政治の国」、「教育による階層化」(168)、「私のアメリカにたいする敵意は絶対的」(088)と、アメリカがものすごく嫌いな人類学者です。また、「核を持つことは国家として自律(自立)すること」、「日本が核を持つことによってアメリカに対して自立することは世界にとって望ましいこと」(086)などと、核兵器によるパワーバランスを主張しています。
 聞き慣れない言葉ですが、「共同体家族」(結婚後も親と同居、親子関係は権威主義的、兄弟関係は平等)と「核家族」(結婚後は親から独立)とか、絶対核家族社会と直系家族社会とかに分類して、それぞれの社会的進歩の度合いを見ているようです。その他、乳児死亡率、平均寿命、エンジニア率、女性の社会進出(大学進学率)、夫婦間の年齢差など多様な要素で比較し、社会の成熟度を見ています。
 また、現代の世界をリベラル寡頭制陣営(アメリカやイギリス)と権威的民主主義陣営(ロシアや中国とか)の対立と描いています。トッドは、このような二項対立を組み合わせて、世界を読み解こうとしていますが、問題の理解をより困難にさせているように感じます。
 しかし、「民主主義(欧米):専制主義(ロシアなど)」という単純な対立関係で、現今のウクライナ戦争を見るよりも、本質に迫っているように思えます。ここでは、トッドの人類学的主張を一旦置いて、ウクライナをめぐる諸国(とくにアメリカ)の関係性(対応)を学ぶことにしました。

アメリカの対欧州戦略
 トッドは、ソ連崩壊後のアメリカの対欧州戦略について、「冷戦後のアメリカの戦略目標は、①ロシアの解体、②欧州とロシアの接近を阻止すること」(071)、「欧ロの接近、日ロの接近はアメリカの戦略的利益に反する」(073)と書いています。このように、アメリカの対欧州政策はNATOや日米安保で共同歩調をとっているかのように見せかけて、実は分断によって自国の利益を得ようとしてきた、卑劣な国だと言いたいようです。
 アメリカの対ロシア政策について、トッドは「アメリカ・NATOは東方に拡大しないと約束していたのに、ロシアを軍事的に包囲した。軍事的緊張を高めてきたのはロシアではなくNATOだった」(030)と書いているように、欧ロの接近・共存を妨害し、ロシアが柔軟姿勢を見せても、緊張関係を持ち込んだとしています。
 トッドが「2014年2月、ウクライナで、民主主義によらずに(親EU派のクーデター)で親ロ派ヤヌコビッチ政権を倒した(ユーロマイダン革命)」(021)、「ロシアの侵攻が始まる前の段階で、米英は高性能の兵器を大量に送り、軍事顧問団を派遣し、ウクライナは米英の衛星国になっていた」(022)と書いているように、NATO・アメリカはウクライナの政治に介入し、自国に都合の悪い政権をクーデターで転覆してきたのです。この政治手法のどこに「民族自決」の原則があるでしょうか。

アメリカの責任を問う声
 トッドは以上のように、現在進行中のウクライナ戦争の原因はアメリカにあると主張していますが、ジョン・ミアシャイマー(シカゴ大学)も「いま起きている戦争の責任は、プーチンやロシアではなく、アメリカとNATOにある」(017)と主張しており、少数派ながら米欧にはアメリカの責任を問う声があるようです。
 日本では、自称左翼でさえも、アメリカ批判を差し控え、すべての責任をロシアにあるとしていますが、ウクライナ戦争の本質を見誤っているような気がします。もちろん、ロシアが国境を越えてウクライナに侵攻することは許されませんが、トッドが「アメリカの戦争の真の目的は、アメリカの通貨と財政を世界の中心に置き続けること」(142)と述べているように、戦争の遠因をつくったのはアメリカであることを明確にすべきではないでしょうか。
 また、トッドは「ヤヌコビッチ政権崩壊後、ウクライナ東部では、言語的・文化的にロシアに近い住民が攻撃に晒された」(043)こと、すなわちウクライナの民族政策の偏狭さが、ロシアの侵攻を招き寄せたことも視野に入れておかねばならないのではないでしょうか。

背景から見る戦争の原因
 トッドの主張には頷けないことがたくさんありますが、トッドの観察と分析に学び、今一度ウクライナ戦争を見る必要があるのではないでしょうか。それは中国・北朝鮮にたいするアメリカ(日本)の軍事的プレッシャーが、ウクライナと同じような構図で、危険を招き寄せており、ウクライナ戦争を遠いヨーロッパの出来事としてではなく、指呼の間で私たちの日常に迫ってくる問題であると認識しなければならないのではないでしょうか。


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