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アジアと小松

アジアの人々との友好関係を築くために、日本の戦争責任と小松基地の問題について発信します。
小松基地問題研究会

20230831 『羊の怒る時』(江馬修著)を読む

2023年09月01日 | 読書
20230831 『羊の怒る時』(江馬修著)を読む

 東京都知事・小池百合子が関東大震災・朝鮮人犠牲者追悼式への追悼文を送らないことについて、斉藤美奈子さんが、「けしからぬ」と怒りを込めて、表記の本を推奨している。
 金沢市立図書館で検索すると、ヒットし、借り受けてきて、一気に読んだ。関東大震災が1923年9月1日で、本書は1924年10月から書き始め、1925年3月に脱稿し、10月に発行された。

 著者の自宅は明治神宮の近くの代々木初台にあり、「第1日」は地震発生初日のことが書かれ、「第2日」は、老将軍の「朝鮮人があちこちへ放火して歩いていると言うぜ」から始まる。「日ごろ日本の国家に対して怨恨を含んでいるきゃつらにとっては、言わば絶好の機会」と言い放つ老将軍に、著者は「それはそうですね」と同調してしまう。
 しかし、曹仁承さんによれば、「10時頃になると、…消防団、青年団、中学生までが一緒に来て、私たちの身体検査を始めた。…私たち13人を縛り上げ、…。12時頃になると橋の向こうで激しい銃声が聞こえてきた」(『ドキュメント 関東大震災』1983年)と証言しており、「朝鮮人狩り」は震災当日の夕方には始まっていたのである。

 最後に、著者は「どこからそうした流言が出たのかね」、「誰が答えることが出来るのかしら」と自問し、「それは永久に知ることは出来ないかもしれない。ただ間違いないのは、すべては日本人全部の責任だということだ」と自答している。
 今日では、流言の出所は軍であり警察であったことは疑いないが、1924年時点では、まだ明らかになっていなかったのかもしれないが、それは、支配階級に向けられる民衆の不満や怒りを、朝鮮人が放火し、襲撃するという流言飛語によって、矛先をすり替えようというあくどい政治であった。
 この手法は今日でもよく使われている。日本海・大和堆でイカが採れなくなると、その原因は海流の変化や海水温の上昇が主たる原因であるにもかかわらず、朝鮮や中国の漁船になすりつけて、排外主義を煽り、軍事的にやっつけろという世論を形成してきたように。

 著者はこの事件を「人種的偏見」に基づくと分析し、その原因を「我々は全然××××的な教育で堅められてきてるんだから」と結論づけている。この伏せ字4文字をどう読むか、私には、「皇国臣民」がまずは浮かんでくるが、再刊の編者(天児直美)も判断がつきかねていたようで、そのまま「××××」としたままだ。
 著者は「朝鮮人狩り」に右往左往しながらも、理性をもって判断し、対応していくが、個の力によっては、いかんともしがたく、無力感に苛まれながら、流されていく。著者はこの原稿を書く過程で、個人の限界を認識し、社会主義者の道を選択する。


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