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小松基地問題研究会

20210729高橋真樹著『日本のSDGs―それってホントにサステナブル?』を読む

2021年07月29日 | 読書
SDGsの欺瞞性

 最近、「SDGs」という標語があふれており、高橋真樹著『日本のSDGs―それってホントにサステナブル?』(2021年)を読んでいる。

17のゴール
 SDGsとは「持続可能な開発目標(サステナブル デベロップメント ゴールズ)」のことであり、なんとなく気象変動や環境問題に関する標語だと思っていたが、SDGsが掲げる「17のゴール」には、「【人間】①貧困をなくそう、②飢餓をゼロに、③すべての人に健康と福祉を、④質の高い教育をみんなに、⑤ジェンダー平等を実現しよう、⑥安全な水とトイレを世界中に、【繁栄】⑦エネルギーをみんなにそしてクリーンに、⑧働きがいも経済成長も、⑨産業と技術革新の基礎を作ろう、⑩人や国の不平等をなくそう、⑪住み続けられるまちづくりを、【地球】⑫つくる責任つかう責任、⑬気象変動に具体的な対策を、⑭海の豊かさを守ろう、⑮陸の豊かさを守ろう、【平和】⑯平和と公正をすべての人に、【パートナーシップ】、⑰パートナーシップで目標を達成しよう」が掲げられている。

資本主義下で持続不可能か
 SDGsは2015年9月の国連サミットで合意し、達成期限を2030年としている。歴史的に見ると、1970年代には、「ローマクラブ」が「地球の物理的な限界を無視した形でおこなわれている人類の経済活動がこのまま続けば、数十年以内に持続不可能になる」という「成長限界」論を打ち出した。2000年には、MDGs(国連ミレニアム開発目標)が出され、「2015年までに世界から貧困や飢餓をなくす(8つの目標)」と宣言したが、2021年の現在に至るも、その深刻さが増しこそすれ、前進している兆しは見られない。
 著者が指摘しているように、1970年代には、人間活動が再生産サイクルの限界に逢着し、ブルジョア社会はこれを認識しながら、「宣言」を出すだけで、手をこまねいて放置してきた。2019年時点では、地球が1年で再生産できる資源の1・7倍を消費しているという。先進国ではさらに顕著で、世界中の人々が日本人と同じ生活をしたら、2・8倍の消費量となるという。
 すなわち先進国=帝国主義の問題なのである。SDGsは「トランスフォーム(抜本的な大転換)」と言っているが、あくまでも資本主義体制のままでのトランスフォームであり、ローマクラブの「成長限界」論(1970年代)やMDGsの「8つの目標」(2000年)と同様に、SDGs(2015年)もタダの宣言で終わり、その犠牲は人民に転嫁され続けるであろう。

なすべきことは何か? 
 環境悪化や貧困を拡大させてきた主要な原因は企業の経済活動(資本の運動)であるにもかかわらず、金融機関や投資家が「ESG投資」を呼びかけている。「ESG」とは環境、社会、ガバナンス(健全な企業経営)の観点から投資することであるが、金儲けを自己目的化する企業(資本)に「健全な経営」を期待できるだろうか。
 SDGsの「17のゴール」の最初に掲げられているのは、「①貧困をなくそう、②飢餓をゼロに」であるが、「世界の富裕層26人の富の合計は、世界人口の約半数(38億人)の富の合計と同じである(2019年)」という現実をもたらしている資本主義の打倒を対象化しない論理は空論以外の何ものでもない。著者は、貧困の原因は「構造的暴力にあり、社会構造を根本から変革する必要がある」と主張しているが、決して資本主義を倒し、新しい政治・経済・社会システムに転換(革命)することを明言しようとしない。

日本の現状
 SDGs達成度ランキングを見ると、2017年の日本は11位だったが、2020には17位に下がったという。そのなかで、高い評価を得ているのは<医療・保険、教育、産業・技術革新、平和と統治、経済成長と雇用>であり、<ジェンダー平等、気候変動対策(石炭火力推進)、海の豊かさ、陸の豊かさ、パートナーシップ、不平等をなくす>は低い評価だという。
 「世界幸福度調査2020」では日本は156カ国中62位であり、「子どもの幸福度調査」では、日本は38カ国中20位で、そのなかの精神的幸福度は37位だという。教育が上位で子どもの精神的幸福度が下位であることは、産業や技術に貢献するための教育が重視され、逆に子どもたちの心の自由(批判的思考)が抑圧され、体制順応型の子どもたちを育てているということだ。体制に順応できず、自殺に追いやられている子どもたちの多さがその実態を裏付けているのだろう(厚生労働省の「自殺白書」では、人口10万人あたりの自殺の死亡率<全体>はアメリカで13.3、イギリスで6.6、ドイツで7.7などだが、日本は17.8)。

日帝、経済界の取り組み
 SDGsでは「経済優先の思考を転換する」としているが、途上国の貧困や人権侵害、生活環境の悪化の原因は先進国=帝国主義の政策や経済活動(植民地主義)にあり、「思考」の問題ではなく、「システム」の問題なのである。資本の支配をそのまま残存させていて、戦争(侵略)と植民地主義を解消できるなどということは夢のまた夢である。
 ところで、日本政府は、2016年に「SDGs推進本部」を設置し、2017年に「SDGsアクションプラン」(①ビジネスとイノベーション、②地方創生、③若者・女性の活躍推進)を発表した。第1課題として「ビジネスとイノベーション」を掲げているように、資本主義を前提にした、資本主義のためのプランであり、本質的な解決には遠く届かない。
 経団連は2017年に、「企業行動憲章」を改訂し、SDGsを柱にすえ、「ソサエティ5・0」の実現をめざすとした(1・0=狩猟採集、2・0=農耕、3・0=工業化、4・0=情報化社会、5・0=人間中心の社会)。「ソサエティ5・0」とは、未来社会として、「AI(人工知能)やIoT(運用テクノロジーと情報テクノロジーを融合したもの)、ロボット技術を産業や社会生活に取り入れ、省力化、低コストなどを図り、高齢化や人手不足、過重労働、格差をなくす」としているが、技術さえ発展すれば、「人間中心の社会」を実現できるという「技術至上主義」であり、的外れの議論に終始している。

2021年7月に『北陸中日新聞』に掲載されたSDGs関連記事

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