おっさんひとり犬いっぴき

家族がふえてノンキな暮らし

達人への道

2024-02-13 11:43:26 | 日記
 小林秀雄の本を読んでいたら、「葉隠」の中の言葉が引用されていた。「葉隠」というのは、藩主に仕える武士の心構えについて江戸時代に書かれた書物である。「葉隠」は読んだことがないが、「武士道と言うは死ぬことと見つけたり」という言葉は有名だ。

 で、引用されていた言葉は「修行においては、これまで成就ということなし。成就と思うところ、そのまま道に背くなり。一生の間、不足不足と思いて、思い死するところ、後より見て、成就の人なり」というものだ。簡単に言うなら、こういうことだろう。

 何ごとかを成し遂げようと思って努力するというのは、決して終わりということはない。すべてうまくできたと思うことは、すでに努力する道に反している。一生にわたって「まだまだ」と思い、思いながら死を迎えてこそ、周囲の人たちは何ごとかを成し遂げた達人と思うものだ。

 これと同じようなセリフを最近ニュースで見た。それは大谷くんがインタビューの中で、「バッターとして自分にはまだまだ技術的に修正するところがあり、やることがたくさんある」と応えていたことだ。それを聞いた瞬間、ちょうど読んでいた「葉隠」についての文句と同じだったことから、達人と呼ばれる人たちはいつの時代でも同じことをしているものなんだなあと感心したのである。

 人間というのは、あれやこれやといろんなことを考えて生活している。夢や理想や野心や計画といったことで頭をいっぱいにして日々暮らしている。が、行動という観点に立つと、僕らには常に「やるのか、やらないのか」という二者択一しかないことに気づく。その中間というようなものはない。だから、僕らの精神と行動というのはなかなか一致を見ないわけだが、精神と行動とがピタリと一致する瞬間がある。それを人は「覚悟」と呼んでいる、と小林秀雄が同じ本の中で書いていた。となると、凡人が達人になるために足りないのは、きっとこの「覚悟」ということなのだろう。
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