理不尽 H.Tさんの作品です
「そんな事してません!」
私の声が大きくなりすぎたのか、他の席の男女局員も立ち上がってこちらを見ている。そのうち何人かが近づいて来るのも見えた。
名古屋市名東郵便局。事は、使用済み郵便切手の「不正再使用」という私への嫌疑なのである。
毎年恒例の年金支給調査に同封された返信用封筒に私自身が切手を貼って十月初めに回答を送ったのだが、数日後に送り返されてきたその切手を巡る遣り取りである。送り返された封筒の表に「一度使った切手は、再使用できません」とペン書きした付箋がべったりと貼り付けられている。しかも、封筒の切手には、消印まで押してあるではないか。それを持って、郵便局に抗議に来た私。
「これは、どういう事でしょう?」と初めに訊ねると、「さぁー」とつぶやいてもう一人を呼ぶ。そして、二人して言い始める。
「この切手は、剝がしてもう一度貼って使ってあるから、返送されたんです」
「ほらね、切手のここを見れば分かります」
「この切手は、私がここで買った記念切手です。それに、私は古い切手など持ってません。よく手紙を出しますが、友人知人の返信はすべて電話ですから」
「でも、ここに剝がした跡がちゃんとあるんですよね」
心臓の鼓動に急き立てられるように涙も浮かんできて「やってない」と繰り返す。「剝がした跡が……」と口々に言い返す局員。〈どうして、消印を押さないで、送り返してくれなかったのか!〉奥歯まで鳴ってくるのを、〈おちつけ、おちつけ〉と言い聞かせて「やってません」を繰り返す。
やがて、明日という返信期限が頭に浮かんで来て悔しさが悲しさに換わり、私は八十二円を出して切手を貼り直していた。帰りながら、泣いた。〈人を疑う事はどんなにいけないことか〉、子どものころそう両親に教えられたが、そんな事がこんなにも簡単に起こっている今。それも、この私に。私は古い人間なんだろうか?
三日ほどしたある日、ゆうちょ銀行からこんな通知が来た。「通常貯金上限変更のお手続きについて」。郵便局とは別組織になったが、名東局へは金輪際もう行きたくない。小包ももう、宅急便だ。切手やはがきも、他で買おう。こんなこと、名東局には痛くも痒くもないだろうが、私のささやかな抵抗だ。疑うことは人を傷つける事、若い人にも骨身にしみて知って欲しい。
そして、こんな嬉しい後日談もあった。
「どうして引き下がったのか。それも、証拠品まであちらに置いてきて……。これは、あなたもそう感じたように、当然、八十二円などという問題じゃないですよね!」
この事を作品にしたいと同人誌例会に持ち出した私に、異口同音、こんな怒りが返ってきた。私の履歴や日常ほとんどを随筆などにして吐き出してきたこのお相手、仲間たち。こんなみんなの言葉が、私にはどれだけ嬉しかったことか。ここにも古い人間が居たということなのかな?!
「そんな事してません!」
私の声が大きくなりすぎたのか、他の席の男女局員も立ち上がってこちらを見ている。そのうち何人かが近づいて来るのも見えた。
名古屋市名東郵便局。事は、使用済み郵便切手の「不正再使用」という私への嫌疑なのである。
毎年恒例の年金支給調査に同封された返信用封筒に私自身が切手を貼って十月初めに回答を送ったのだが、数日後に送り返されてきたその切手を巡る遣り取りである。送り返された封筒の表に「一度使った切手は、再使用できません」とペン書きした付箋がべったりと貼り付けられている。しかも、封筒の切手には、消印まで押してあるではないか。それを持って、郵便局に抗議に来た私。
「これは、どういう事でしょう?」と初めに訊ねると、「さぁー」とつぶやいてもう一人を呼ぶ。そして、二人して言い始める。
「この切手は、剝がしてもう一度貼って使ってあるから、返送されたんです」
「ほらね、切手のここを見れば分かります」
「この切手は、私がここで買った記念切手です。それに、私は古い切手など持ってません。よく手紙を出しますが、友人知人の返信はすべて電話ですから」
「でも、ここに剝がした跡がちゃんとあるんですよね」
心臓の鼓動に急き立てられるように涙も浮かんできて「やってない」と繰り返す。「剝がした跡が……」と口々に言い返す局員。〈どうして、消印を押さないで、送り返してくれなかったのか!〉奥歯まで鳴ってくるのを、〈おちつけ、おちつけ〉と言い聞かせて「やってません」を繰り返す。
やがて、明日という返信期限が頭に浮かんで来て悔しさが悲しさに換わり、私は八十二円を出して切手を貼り直していた。帰りながら、泣いた。〈人を疑う事はどんなにいけないことか〉、子どものころそう両親に教えられたが、そんな事がこんなにも簡単に起こっている今。それも、この私に。私は古い人間なんだろうか?
三日ほどしたある日、ゆうちょ銀行からこんな通知が来た。「通常貯金上限変更のお手続きについて」。郵便局とは別組織になったが、名東局へは金輪際もう行きたくない。小包ももう、宅急便だ。切手やはがきも、他で買おう。こんなこと、名東局には痛くも痒くもないだろうが、私のささやかな抵抗だ。疑うことは人を傷つける事、若い人にも骨身にしみて知って欲しい。
そして、こんな嬉しい後日談もあった。
「どうして引き下がったのか。それも、証拠品まであちらに置いてきて……。これは、あなたもそう感じたように、当然、八十二円などという問題じゃないですよね!」
この事を作品にしたいと同人誌例会に持ち出した私に、異口同音、こんな怒りが返ってきた。私の履歴や日常ほとんどを随筆などにして吐き出してきたこのお相手、仲間たち。こんなみんなの言葉が、私にはどれだけ嬉しかったことか。ここにも古い人間が居たということなのかな?!