はじめに
貴男の経済論議は、何よりもマクロ経済学的ではなさ過ぎると思います。つまり、29年の世界大恐慌とか、08年の「百年に一度の世界経済危機」(元グリーンスパンFRB議長)とかによって問われている百年などというスパンの長期的・世界的大問題への答えにはなっていないということです。もちろんアベノミクス自身も同じですが。その景気対策が、従来通りの竹中平蔵式規制緩和理論の延長みたいなものですから。
さて、百年単位のようなスパンで今、「世界が」問われていることは何なのでしょうか。貴男は次のように語りましたが、こんな日本だけの視点で良いはずはないのです。
『 日米独なんかは南米諸国の失業率まで考えて貨幣供給量や金利などを決定すべきなんでしょうか。そんなわけはありませんね。周りの国々が豊かになれば、日本の失業率が改善し、賃金も上がる――なんてことがないのは・・・・』
また規制緩和理論の元祖を持ち出したようなこんな話もどうしようもありません。
『現在曲がりなりにも調子がよいのはアメリカやイギリスで、それは過去調子が悪かった時期にサッチャーやレーガンが新自由主義に傾いたからよくなった部分もあるので、それを全否定しても仕方がありません』
格好のマクロ経済的世界分析
これへの回答として現在の世界で最も相応しいものは、国連スティグリッツ報告でしょう。正式名称はこうです。『国連総会議長諮問に対する国際通貨金融システム改革についての専門家委員会報告──最終版2009年9月21日』。これを読めば、今世界経済にどういう観点が最も必要かがよく分かるのですが、この輪郭については、昨年11月12,14,17日の拙稿もお読み頂くとして、今日は本報告に付されたデスコト国連議長(当時)による序文を抜粋、要約しておきます。
なお、この報告は日本では全く無視されている感があります。この理由は、報告準備段階から最後まで激しく抵抗したアメリカに、日本が同一歩調を取っているからだとしか思えません。これを翻訳したりすると、日本政府や官僚たちから憎まれる? これへのアメリカの敵意は、以下要約の最後にデスコト議長自身の言葉で紹介されています。この言葉、表現だけを見ても、今の世界の敵対関係の厳しさが分かるという感想を持ったものでした。アメリカのやり方に対する、国連の圧倒的多数国家の不快感ということでしょう。こういうスティグリッツ報告が国連で採択されているのですから。
【 『2009年6月26日、驚くべきことが起こった。「国際金融経済危機とその開発への影響」についての幅広く意義深い声明を、192ヶ国で構成される国連がコンセンサス方式で採択したのである。分析と勧告は痛みの短期的軽減から深い構造変革まで、危機への対応策から世界金融経済構造の変革まで全域に及んだ。』
『6月の決議は2007年8月以降、大恐慌以来最大の世界経済不況を記録した長きにわたる国内と地域の危機から集積した知的資本を引き出した』
『蓄積された経験は、彼らの今度の仕事は10年単位でなく100年単位で評価されるだろうということを示していた』
『彼らはこの最終報告「結論」に書いてあるように、活気づかせ大胆に考えるように支援してくれた。
「この危機は、経済に何かが起こった、何か、回避は勿論、予見さえできなかったことが起こったというような、単なる『百年に一度の事故』ではない。我々はその逆を考える。危機は人間がつくったものであると。これは民間セクターによる過ちと、誤って適用され失敗した公的政策の結果なのだ(第6章第1項)」』
『我々の世界経済は故障している。ここまではだれもが認めるところである。しかし、では正確に言うと、どこが故障していて修理する必要があるのか、ということになると大論争になってしまうのである』
『これらの危機は、この35年間世界に適用されてきた支配的な経済観によってしっかりと相互に関連づけられ、結びつけられていた』
『この点についての本報告の下記の部分は力強い。「過剰生産力と大量失業が同居する世界の中で、地球温暖化や貧困の撲滅という挑戦に応えて行くことを含めて、未達成の地球的課題が残されている。このような状況は受け入れ難い。(第1章第11項)」』
『本報告の基本的視点は、我々の複合危機は失敗或いは制度の失敗の結果ではなく、制度そのもの(組織と原則、歪められ損なわれた制度の仕組み)がこれら多くの失敗の原因だということにある』
『米国の代表は決議採択後の発言で、「国連は…… 今回の文書で述べられている多くの問題について、意味のある対話の方向を提起したりふさわしい場を提供したりする専門知識もマンデート(権限とか委ねられる力量とかの意味ー文科系)も持っていない、というのが我々の強い意見である」と述べた』
『私はマハトマ・ガンジーの生涯と教えからもインスピレーションを得た。彼は嘗てこう述べている。「最初彼らはあなたを無視する。次いで彼らはあなたをからかう。そして彼らはあなたと戦う。そしてあなたは勝利する。」』
『専門家委員会の報告と6月の決議文書は、我々の国連を通して真実のために戦い続けようという、招待状或いは勧告である』 】
予告編です
以下ここで順に、約束させていただいたようにこのスティグリッツ報告の全6章を要約紹介していきたい。ただ、なんせA5版240頁の長文。連日紹介というわけにはいかない事もお断りさせていただきたい。なお、各章のタイトルはこうなっている。
①はじめに 危機:その原因、影響、そして世界的な対応の必要性
危機への多様な対応
発展途上国への影響
②マクロ経済学的問題と視点
③国際的規制の改革により、世界経済の安定性を高める
④国際機関
⑤国際金融の革新
⑥結論
貴男の経済論議は、何よりもマクロ経済学的ではなさ過ぎると思います。つまり、29年の世界大恐慌とか、08年の「百年に一度の世界経済危機」(元グリーンスパンFRB議長)とかによって問われている百年などというスパンの長期的・世界的大問題への答えにはなっていないということです。もちろんアベノミクス自身も同じですが。その景気対策が、従来通りの竹中平蔵式規制緩和理論の延長みたいなものですから。
さて、百年単位のようなスパンで今、「世界が」問われていることは何なのでしょうか。貴男は次のように語りましたが、こんな日本だけの視点で良いはずはないのです。
『 日米独なんかは南米諸国の失業率まで考えて貨幣供給量や金利などを決定すべきなんでしょうか。そんなわけはありませんね。周りの国々が豊かになれば、日本の失業率が改善し、賃金も上がる――なんてことがないのは・・・・』
また規制緩和理論の元祖を持ち出したようなこんな話もどうしようもありません。
『現在曲がりなりにも調子がよいのはアメリカやイギリスで、それは過去調子が悪かった時期にサッチャーやレーガンが新自由主義に傾いたからよくなった部分もあるので、それを全否定しても仕方がありません』
格好のマクロ経済的世界分析
これへの回答として現在の世界で最も相応しいものは、国連スティグリッツ報告でしょう。正式名称はこうです。『国連総会議長諮問に対する国際通貨金融システム改革についての専門家委員会報告──最終版2009年9月21日』。これを読めば、今世界経済にどういう観点が最も必要かがよく分かるのですが、この輪郭については、昨年11月12,14,17日の拙稿もお読み頂くとして、今日は本報告に付されたデスコト国連議長(当時)による序文を抜粋、要約しておきます。
なお、この報告は日本では全く無視されている感があります。この理由は、報告準備段階から最後まで激しく抵抗したアメリカに、日本が同一歩調を取っているからだとしか思えません。これを翻訳したりすると、日本政府や官僚たちから憎まれる? これへのアメリカの敵意は、以下要約の最後にデスコト議長自身の言葉で紹介されています。この言葉、表現だけを見ても、今の世界の敵対関係の厳しさが分かるという感想を持ったものでした。アメリカのやり方に対する、国連の圧倒的多数国家の不快感ということでしょう。こういうスティグリッツ報告が国連で採択されているのですから。
【 『2009年6月26日、驚くべきことが起こった。「国際金融経済危機とその開発への影響」についての幅広く意義深い声明を、192ヶ国で構成される国連がコンセンサス方式で採択したのである。分析と勧告は痛みの短期的軽減から深い構造変革まで、危機への対応策から世界金融経済構造の変革まで全域に及んだ。』
『6月の決議は2007年8月以降、大恐慌以来最大の世界経済不況を記録した長きにわたる国内と地域の危機から集積した知的資本を引き出した』
『蓄積された経験は、彼らの今度の仕事は10年単位でなく100年単位で評価されるだろうということを示していた』
『彼らはこの最終報告「結論」に書いてあるように、活気づかせ大胆に考えるように支援してくれた。
「この危機は、経済に何かが起こった、何か、回避は勿論、予見さえできなかったことが起こったというような、単なる『百年に一度の事故』ではない。我々はその逆を考える。危機は人間がつくったものであると。これは民間セクターによる過ちと、誤って適用され失敗した公的政策の結果なのだ(第6章第1項)」』
『我々の世界経済は故障している。ここまではだれもが認めるところである。しかし、では正確に言うと、どこが故障していて修理する必要があるのか、ということになると大論争になってしまうのである』
『これらの危機は、この35年間世界に適用されてきた支配的な経済観によってしっかりと相互に関連づけられ、結びつけられていた』
『この点についての本報告の下記の部分は力強い。「過剰生産力と大量失業が同居する世界の中で、地球温暖化や貧困の撲滅という挑戦に応えて行くことを含めて、未達成の地球的課題が残されている。このような状況は受け入れ難い。(第1章第11項)」』
『本報告の基本的視点は、我々の複合危機は失敗或いは制度の失敗の結果ではなく、制度そのもの(組織と原則、歪められ損なわれた制度の仕組み)がこれら多くの失敗の原因だということにある』
『米国の代表は決議採択後の発言で、「国連は…… 今回の文書で述べられている多くの問題について、意味のある対話の方向を提起したりふさわしい場を提供したりする専門知識もマンデート(権限とか委ねられる力量とかの意味ー文科系)も持っていない、というのが我々の強い意見である」と述べた』
『私はマハトマ・ガンジーの生涯と教えからもインスピレーションを得た。彼は嘗てこう述べている。「最初彼らはあなたを無視する。次いで彼らはあなたをからかう。そして彼らはあなたと戦う。そしてあなたは勝利する。」』
『専門家委員会の報告と6月の決議文書は、我々の国連を通して真実のために戦い続けようという、招待状或いは勧告である』 】
予告編です
以下ここで順に、約束させていただいたようにこのスティグリッツ報告の全6章を要約紹介していきたい。ただ、なんせA5版240頁の長文。連日紹介というわけにはいかない事もお断りさせていただきたい。なお、各章のタイトルはこうなっている。
①はじめに 危機:その原因、影響、そして世界的な対応の必要性
危機への多様な対応
発展途上国への影響
②マクロ経済学的問題と視点
③国際的規制の改革により、世界経済の安定性を高める
④国際機関
⑤国際金融の革新
⑥結論
10年後を見るのさえ、100年後を見るような勉強をしなければ不可能なことと述べた積もりです。そして、100年後を見るには、マルクスとかケインズとか、今の社会、経済に影響を与えてきた人々の理論の骨子ぐらいは一応囓ってみなければとも。
今日から、スティグリッツ報告を要約、紹介し始めましたので、お読みくだされば幸いです。それにしてもこの国連報告文章、なんで日本では話題になって来なかったのでしょうね。猫も杓子も、ミクロ経済の話ばかりで。だからこそ、こんなことが起こった。南山大学や藤田保健衛生大学までがそれぞれ何百億というお金を詐欺同然のやり方で盗まれて、訴訟沙汰。
デリバティブって、長い目で見れば泥棒、よく見てもネズミ講ですよ。マクロ経済学の人ならみんな知っていることでしょう。泥棒だからこそ、アメリカの投資銀行は全部潰れたのです。