随筆紹介 十分間の面会 K・Kさんの作品です
老人ホームにお世話になっている98歳の母と、2年ぶりに面会できた。昨年の冬には肺炎で4か月入院、その間も面会禁止で様子も分からない。このまま最後まで会えないかと覚悟をしたこともあった。何とか持ちこたえてこの日を迎えた。
博多から私の弟夫婦も10分間の面会のためだけにわざわざ名古屋に来た。私と妹は名古屋に住むが、弟は遠い。たぶん高齢の母が少しでも元気なうちに会いに来たのだろう。兄弟3人が揃ったのも10年ぶりだ。
母はおぼつかない足取りだが、シルバーカーを押しながらゆっくりと歩いて来た。一瞬立ち止まり顔を傾げて考える。私たちを思い出したようだ。笑顔で近寄る。弟家族の結婚式の写真を母に見せると、楽しそうに見つめる。コロナ禍で写真だけ撮影した結婚式だったとか。
すると、側に居た小学5年生のひ孫を見て「知らんなあ」と、困った顔をした。今までは会いに行くと「大きくなったなあ」と喜んでいたのに。目の前で知らない人と言われた孫はショックだったらしく、大きな目に涙がふくれあがってきた。仕方がないかもしれない。コロナの前は施設で年に3回、クリスマス会、敬老会、夕涼み会など、家族と一緒に食事会で顔を合わせていた。その機会がなくなったのだ。帰り道、孫は「おばあちゃん、私のこと、忘れないで」と私の手をぎゅっと握った。
(2021年12月の作品です)