逃げる S.Yさんの作品
新しい年が明けたが気が重い。暮れに娘と喧嘩をしたことが尾を引いている。
娘は二歳の孫娘を保育園へ預けて会社務めをしている。しかも今、妊娠五カ月である。身重で大変だろうと、私と夫はできるだけの協力をしていた。が、私たちにも思いもよらなかった体調の変化、要は老化が忍び寄ってきていることに気付き始めたのも同時期だ。
はっきりいって家事労働、孫の世話がけっこうな負担になってきた。還暦を過ぎて、まだまだ若いつもりでいたのは気持ちだけ。大人五人と孫、それに重病の老犬、どれもこれも食事時間がバラバラでその世話が面倒といったらない。買い物を含め、一日の大半をご飯作りと片付けが占めている。家族への無償奉仕だ。
毎日、遅く帰宅する息子たちの食事の世話、その片づけを終えるのが大体日付が変わるころ。日課になったとはいえ夜遅く台所で洗い物をしていると、虚しさに手を休めて在らぬ空間を見つめている自分に涙が出そうになる。不幸だとは思わない。だがときに、家族への無償奉仕がばかばかしくてイヤになるのだ。
その限界に達しつつあるとき、バカ娘の言い出したことに私の神経は切れた。
暮れの押し迫ったころに、娘家族が一泊で旦那の実家、東京に行くのだという。
車で長時同、渋滞もあるだろう師走の慌ただしいこの時期に、幼子を連れてそんな身重で、なぜ今行くのか? 年末年始を向こうでゆっくりするというならまだわかる。あまり体調も良くないのに、ほぼとんぼ返りをするなんて、とんでもない。私はそう言った。
常日頃から娘の身を案じ、自己犠牲を払ってまで(このところ私は友達づきあいや趣味を軽減している)孫の世話をし続けているのはひとえに娘が心配だからだ。
「お父さんとお母さんは毎日孫に会っているからいいだろうけど、彼のご両親は孫に会いたくてもなかなか会えないのよ。孫に会わせてあげるのがいけないわけ?」娘は激怒した。「あっ、そう、じゃあ、あちらで孫を見てもらったら……」売り言葉に買い言葉だ。冗談じゃない。私は好きで娘家族の世話をしているのではない。どうやら娘は私たちが孫を独占したがっていると勘違いしているようだ。孫は可愛いが、私は孫の成長が生き甲斐というほどではない。娘家族に普段から何の気遣いもないあちらの親に対し「孫に会いたければ、自分たちが会いに来ればいいじゃないか」夫も怒っている。
私たちは初孫ということもあって、娘家族を大事にし過ぎ、甘やかしたのかもしれない。娘もそれに慣れて、当たり前のようになってきていた。ちょっと、互いに距離を置こうと考えを改めた。娘の頼みを「はい、はい」と聞いていたが、都合が悪いときは断ろう。
人生の残り時間が限られてきた今、子どもたちへの無償奉仕から少し逃げようと思う。
新しい年が明けたが気が重い。暮れに娘と喧嘩をしたことが尾を引いている。
娘は二歳の孫娘を保育園へ預けて会社務めをしている。しかも今、妊娠五カ月である。身重で大変だろうと、私と夫はできるだけの協力をしていた。が、私たちにも思いもよらなかった体調の変化、要は老化が忍び寄ってきていることに気付き始めたのも同時期だ。
はっきりいって家事労働、孫の世話がけっこうな負担になってきた。還暦を過ぎて、まだまだ若いつもりでいたのは気持ちだけ。大人五人と孫、それに重病の老犬、どれもこれも食事時間がバラバラでその世話が面倒といったらない。買い物を含め、一日の大半をご飯作りと片付けが占めている。家族への無償奉仕だ。
毎日、遅く帰宅する息子たちの食事の世話、その片づけを終えるのが大体日付が変わるころ。日課になったとはいえ夜遅く台所で洗い物をしていると、虚しさに手を休めて在らぬ空間を見つめている自分に涙が出そうになる。不幸だとは思わない。だがときに、家族への無償奉仕がばかばかしくてイヤになるのだ。
その限界に達しつつあるとき、バカ娘の言い出したことに私の神経は切れた。
暮れの押し迫ったころに、娘家族が一泊で旦那の実家、東京に行くのだという。
車で長時同、渋滞もあるだろう師走の慌ただしいこの時期に、幼子を連れてそんな身重で、なぜ今行くのか? 年末年始を向こうでゆっくりするというならまだわかる。あまり体調も良くないのに、ほぼとんぼ返りをするなんて、とんでもない。私はそう言った。
常日頃から娘の身を案じ、自己犠牲を払ってまで(このところ私は友達づきあいや趣味を軽減している)孫の世話をし続けているのはひとえに娘が心配だからだ。
「お父さんとお母さんは毎日孫に会っているからいいだろうけど、彼のご両親は孫に会いたくてもなかなか会えないのよ。孫に会わせてあげるのがいけないわけ?」娘は激怒した。「あっ、そう、じゃあ、あちらで孫を見てもらったら……」売り言葉に買い言葉だ。冗談じゃない。私は好きで娘家族の世話をしているのではない。どうやら娘は私たちが孫を独占したがっていると勘違いしているようだ。孫は可愛いが、私は孫の成長が生き甲斐というほどではない。娘家族に普段から何の気遣いもないあちらの親に対し「孫に会いたければ、自分たちが会いに来ればいいじゃないか」夫も怒っている。
私たちは初孫ということもあって、娘家族を大事にし過ぎ、甘やかしたのかもしれない。娘もそれに慣れて、当たり前のようになってきていた。ちょっと、互いに距離を置こうと考えを改めた。娘の頼みを「はい、はい」と聞いていたが、都合が悪いときは断ろう。
人生の残り時間が限られてきた今、子どもたちへの無償奉仕から少し逃げようと思う。