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環境平和国家への道ー書評「国の理想と憲法」 仲野忠晴氏

2007年05月27日 21時36分34秒 | Weblog
本の構成は、日本の将来を決める憲法問題、地球環境と人類社会の今を知る、この危機をどう乗り越えるか、提唱の4つに分かれている。

 最初の章では、憲法問題の論争を整理し、その核心を突く。護憲か改憲かということが本当の論点ではなく、真の論点は「武力を持って日本を守るか」それとも「独自の平和政策で日本を守るか」ということだ。そして、日本国憲法が本来持っている平和に対する積極的姿勢と能動性を、つまり、「捨て身の決意で、武力を放棄して、平和的手段によって世界の平和と繁栄に貢献する努力をしよう。それによって、国の存立を図ろう」ということを憲法の条文に即してわかり易く解説し、その現在的意義を読み解いてくれる。

 また、押し付け憲法論、他国が攻めてくる可能性、自民党憲法草案の真意と徴兵制、武力は本当に抑止力になるのかなど、誰もが抱く疑問に説得力を持って答えている。私が何よりも重要だと感じたことは、ほとんどの憲法論議が、「日本をどうやって守るのか」という狭い自己保身の視点からのみ論じられるだけで、人類の危機回避のため「日本に何ができるか」という観点から論じられていないという筆者の指摘である。

 第2章では、多くの資料やデーターをもとに世界の置かれている環境問題の実態とエネルギー問題、21世紀の戦争と紛争、生きがいが持てなくなった日本の社会の現状について予備知識なしで理解できるようにわかりやすく書かれている。この章を読むと世界情勢を含め、私達が置かれている現在の深刻な状況がはっきりと確認できる。そして、これらの問題をどのような方向で解決していったらよいのか、また、原発賛否の議論において、その収支がマイナスになることがほとんど論点に出てこないことなど、論争で抜け落ちている点も鋭く指摘をしてくれる。

 第3章、ここが、この本の一番の核心部分で非常に重要なところである。というのも、なぜ人類が現在の危機に陥ったのか、そして、その危機を解決しようとする様々な試みや活動がなぜ決定的な力にならないのか、それらの原因と問題を分析し根本から解決するための方策が示されているからだ。

 筆者は、まず社会の根底で働いている力の方向を変えない限り、その上の制度や仕組みをいくら変えても根本的解決に繋がらないことをここで指摘する。それはちょうど氷山に向かうタイタニックに例えられる。つまり、その中の乗客のために、有機栽培の食材で作った安全で美味しい料理を出しても、素晴らしい医療施設を備えていても、すぐれた教養・教育制度があっても、どれだけ心を込めて乗客にサービスをしても、船自体の方向を変えない限り破滅への道が避けられないということだ。

 そして、人類の歴史的・社会的観点から社会の根底に働いている力を分析し、それ力こそが国家エゴイズムであると看破する。また、個人のエゴイズムと国家エゴイズムの共通点と相違点に言及するだけでなく、様々な角度から事例を挙げて国家エゴイズムが働いている諸相を例示する。
その上で、一部の権力者がどのように国家エゴイズムを利用し、自分たちの利益のために使ってきたのかを歴史的事例を挙げて明快に説明してくれる。しかも、「みんなのため」と「国家のため」、「愛国心」の2通りの意味について解説されているところを読むと、これらの言葉の本質的な意味の違いが整理され胸のつかえが取れる。

 では、自国の生き残りと繁栄のみを考える国家エゴイズムの行動原理を乗り越えるためには何が必要か。

 筆者は様々な条件を考察した上で、その鍵を握るのは日本であると主張する。そして、そのためには、日本が「私たちの日常の努力が、国内の諸問題の解決に直結し、なおかつ、全人類の危機回避に繋がる」新しい国家理想を持つことが必要だと説く。つまり、「国際環境平和国家を目指す」という理想をまず日本が掲げるということだ。

 ただ、一見するとこの「まず国の目標を設定する」ということが、些細なことに思えるかもしれない。しかし、これこそが「バックキャスティング(未来から現在を振り返る)」という極めて画期的な方法なのだ。従来の常識的方法は、「今はこうだから、将来はこうしよう」という現状の分析から将来の目標を設定するもので、この方法だと現状の分析が足かせになり小さくまとまった目標しか達成できない。

 しかし、未来の理想の目標をまず設定し、「将来,その目標を達成するためには何をしていけばいいのか」を考え実行していくこの方法は、従来の枠に囚われない発想や行動を引き出す。実際、デンマークやスウェーデンをはじめとするヨーロッパの先進国は、この考え方を実践することで環境問題やエネルギー問題に大きな成果をあげてきている。
最後の提唱では、今まで筆者が述べてきたこの提案の主旨とその活動についてまとめている。筆者の40年の思索と実践から、その強い思いと願いが込められている。

 それぞれの時代において、社会に大きな影響を与え、その流れを変える名著の存在があった。この「国の理想と憲法」もその1冊である。平和を願い実践している人はもちろん、閉塞感に包まれ未来に光を見出せない人にも是非読んでもらいたい本である。


(仲野忠晴)


    
コメント (7)
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