思わず「大きい!」と叫んでしまった。
“せいちゃん”は、サザエを網で獲る。
昨夕から仕掛けていた網を上げ、今浜に戻ってきた。渋い表情だ。口を横にギュッと閉めている時は、獲物が少ない時の彼独特の顔だ。陽はまだここには射していない。北風が身を切る。波打ち際のドラム缶ストーブに続けて大きな薪を入れる。バチッバチッと時々大きな燃える音が響く。
舟に手繰り揚げられ浜に戻ってきた網から、今日の獲物のサザエを一個ずつ外していく。網の整理も半分ほど進んだ頃、岩の塊みたいなものが現れた。網も破けないで揚がったものだと見ていたら、“せいちゃん”が「おっ!」と小さな声を挙げた。
アワビだ、大きい、今まで見たことが無いほど巨大だ。片手の指を左右に大きく広げ当ててみると、まだ10cm以上も余りがある。30cm以上の大きさだ。
アワビはサザエと違い、殻に突起が殆ど無いため網には滅多に掛からない。
アワビの漁期は正月に始まったばかり、しかし海水温度が緩み始めると、船上から箱メガネで覗き込んで獲る方法のボウチョウ漁では成長した海草類が邪魔をして、海底の岩の割れ目等に居るアワビは全く見えなくなる。漁の期間は短い。また小坪では潜って獲るのは禁漁のルールがある。
聞くと、幼貝で毎年春に放流され、水深10m程の岩礁に生息し、アラメ、ワカメ、コンブ等の褐藻類を食べ、年間2~3cmしか成長しない。夜行性で日中は岩の間や砂の中に潜っていると言う。
大きさを比較したくて200gぐらいの大き目のサザエを側に置いて撮ったが、改めて写真を見ると大きさが伝わってこない、ケイタイでも側に置けば良かったか。
いつしか“せいちゃん“の弾けるような笑顔にも、朝日が射し始めていた。
この浜は、間もなくワカメ漁も解禁となり、浜全体が活気付き、一気に春めいていく。