海側生活

「今さら」ではなく「今から」

一人で入院し、二人で退院

2009年09月12日 | 感じるまま

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一ヶ月に一度は病院にいく。
手術後の経過やその他の変化を診て貰うためだ。
都心の大きな病院だが、どの科目の診察室でも順番を待っている人は高齢者の割合が多い、特に男性が多い。どこの高齢者施設でも女性が多いのとは対照的だ。

いづれにしても病院と言う所は楽しい所ではないと、いつも感じていたが、ある時こんな光景に出会った。
診察の予約時間までは間があったので地下のレストランでコーヒーを飲んでいた時の事だ。すぐ前の席に若い夫婦がやって来て向かい合って座った。緑色っぽい妊婦服らしいワンピースを身に着けた女性の腹は下に向けて重そうに張り出していた。メニューを見ながら手を後ろに回してしきりに腰を擦っている。中年のウエイトレスが注文を聞きに近づいて来て何か小声で言ったらしい。腰が痛むのか、とでも聞いたのか。「もうすぐ生まれるのですよ」若い女性の声だけが歌のようにハッキリと聞こえてきた。腰が痛むからなのか、やや苦しげだったのに、その言葉には強い宣言みたいな響きがあった。こんな時の女性がどんな気持なのか、自分はただ想像してみるしかないが、想像しても上手く思い描けない。男性の声は低く殆ど耳に達してこない。ウエイトレスは二言、三言のやり取りの後、注文を伝えに立ち去った。
女性は又伸ばした腰を擦っている。

産科のある病院は良いなと何故だかホッとした気持になった。
病院は病人が来る所だが、妊婦や新生児は病人ではない。
命の衰えを心配して受診や検査に出掛けて来る高齢者達の目に新しい命の灯が灯る光景が映るのは心安らぐ事だ。

一人で入院し二人で退院する健康な人達も多くいるのだなと思った。