雪が降るようになると、良くレポーターが行く場所がある。青森県の酸ヶ湯だ。しかし一番寒い場所は違う。岩手県の玉山村薮川だ。これは古い町名で、今は盛岡市らしい。
オレが住んでいた頃は、今日の最低気温と言えば必ずこの名前が出て来た。秋田が4度の今、向こうはマイナス5.5度。地形的にいうと、岩手山と姫神に挟まれた低地で、回廊のようなところだ。風が無くて晴れた日は間違いなく冷える。
この村に石川啄木は生まれた。大学時代、啄木の歌碑まで行ったが、何もない所だった。オレが若い頃まで、岩手県は日本のチベットと呼ばれていた。高原という意味もあろうが、辺ぴな場所という意味でも使われていた。それが今は追い越されてしまった。
盛岡の下宿はサッシ戸ではない窓だった。しかも北向きに寝ていたので、頭に雪が舞い込むような寝方だったが、若いから眠れた。寒い日は余った敷布団を掛けて寝たりしていた。重かったが、暖かかった。
訪れた友人が、机の上の凍った牛乳を見てビックリしていた。
今はそんな無謀は出来ない。毛糸の帽子をかぶって寝る。
弱ったからではない。神経が行き届いたからだ、と思いたい。