松美の言絵(いえ)

私は誤解されるのが好きだ。言い訳する手間が省けるから。

羽生君と羽生名人

2014-11-08 12:19:41 | 日記・エッセイ・コラム

                羽生(はにゅう)君と羽生(はぶ)名人

 この苗字を聞くと、そういう季節になったんだなあと思います。羽生君はシーズン最初でつまずいたけど、相変わらず100点越えを目指した孤高の滑りをしていることが良く分かった。なんで将棋もこの時期なんだと思うでしょう。なぜかETV特集で、春に行われた電王戦5番勝負を放送していたんですよ。あの勝負をプロ棋士側、ソフト開発者側から掘り下げた結果、分かってきたことは、結論から言うと、ソフトは棋士の過去のデータから学んで強くなり、棋士もまたソフトを利用して進化する、ということなんです。だからこの番組を見終わった時点で考えたことは、まだ人間にも勝つチャンスはあるんだ、という感想でした。例えば唯一YSSに勝った第3局の豊島7段はもう圧倒的な勝ち方をしたわけです。将棋ソフトは終盤が強いと言われていたけど、豊島7段は中盤も強いことを見抜いていました。中盤とは駒同志がぶつかり合う動的な過程で、ここでソフトは「評価値」という概念を用います。これは「駒の損得」「玉の安定度」「駒の位置関係」などから自分の今の状況を判断する概念です。過去の膨大な棋譜を「機械学習」したソフトが評価値で判断し、ミスのない打ち方をすればプロに勝ち目はないように思えます。そこで豊島7段が考えた手は「横歩取り」。これは前例が少なく、パソコンは局面によっては知らない世界に誘導され、間違った手を指してしまう、というしかも中盤を省略したようないきなりの応酬となるので、棋士の体力にも余裕が生まれるという一石二鳥のような方法です。このあとにツツカナと対局したベテランの森下9段は、悩みました。その手で行くか、自分の得意な「矢倉」で行くか。森下9段は羽生名人と頂点を争うほど強かった時期から最近はB2級まで力を落としていました。ツツカナと練習を繰り返すうち次第に実力を取り戻し、自信を深めてきていました。だから自分なりの得意の戦法で臨みました。そこはソフトも同じです。対戦相手の棋譜はすべて取り込んでいるわけです。矢倉対矢倉の名勝負になりました。解説者も分析できないような攻防もありました。しかし結局人間の弱みが出て、一つの悪手から崩されてしまいました。しかし負けてもすっきりした顔で帰ってきます。充実感を感じていたそうです。

 将棋ソフトが世界的に注目される理由は、「人工知能」の開発にあります。ビッグデータからどうやって目的の意味ある答えを導き出すか、それが凝縮されたのが将棋ソフトです。第1局で若手のホープ菅井5段を破った「習甦(しゅうそ)」というソフトの由来は、羽生名人から白星をあげる、という意味で、それで羽生という漢字が含まれているのだそうです。その羽生名人は20年前「コンピューターがプロ棋士を負かす日は?」という質問に「2015年」と答えていたそうです。ほかの棋士が、そんな日は永遠に来ないと言っていた時期にですよ。ここら辺が常人と違うところですね。

 そしてきのう、来るべき来年の電王戦ファイナルの出場ソフトが決定というニュースがありました。1年かけてソフトは進化し、プロ棋士が「強くなりすぎ」と嘆くほどレベルが上がりました。前回のソフトは二つしか生き残っていません。習甦も破れました。前回で「プロ中位以上」だったソフトが羽生名人の予言どおりプロを負かすのか、はたまた人間も進化しているのか。3月の勝負が注目されるところです。ちなみに何度も恐縮ですが、私は一切将棋を指したことはありません。単純に機械の進化の様子を見守っています。

コメント
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