徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「旅立ちの島唄~十五の春~」―おとうとおかあに少女が別れを告げるとき―

2013-05-22 16:00:00 | 映画


 別離は、新しい旅立ちの時でもある。
 悲しみも、希望に輝くときがある。
 沖縄本島から東へ360キロも離れた、絶海の孤島・・・。
 船旅で13時間かかる。
 約110年前に、八丈島からの開拓者によって拓かれた、南大東島である。

 この島には高校がない。
 子供は15歳の春になると島を出て、家族と離れて暮らさなくてはならない。
 子供を送り出すすべての親と、親から巣立ちゆくすべての子供の成長を見送る。
 そうした実話をもとに生まれたオリジナルストーリーを、吉田康弘監督が映画化した。
 親が子を想い、子が親を想う。それが、普遍的な愛というものだ。
 島の風土に、人間の素朴な純粋性が投影されて、またよき家族の絆を描いた小品だ。







     
仲里優奈(三吉彩花)は、南大東島に住む14歳の中学2年生だ。

父利治(小林薫)は、さとうきび畑を耕し、母明美(大竹しのぶ)は、兄や姉が進学するときに那覇に渡ったまま何故か戻ってこない。
家族は壊れかけていた。
3月になると、島の少女民謡グループ“ボロジノ娘”の現リーダーは、中学卒業とともに高校進学のために島を去る。
明日からは、優奈がリーダーとして民謡グループを牽引していくことになる。
優奈もまた、1年後には高校進学のために島を離れなくてはならない。

島で過ごす最後の1年は、ずっと二人きりだった父との、残されたわずかな時間だった。
父を一人残して那覇へ行く罪悪感、那覇での暮らしに対する不安と憧れ、淡く切ない初恋、そして家族みんなが一緒に暮らしたいという想いに、優奈の心は揺れていた。
・・・その優奈が、島を離れる旅立ちの日が近づいていた。

15歳の春といえば、大人になるにはまだ早すぎる年頃だ。
作品は、それまでの父と娘、母と娘の1年間を丹念に描いている。
島での最後のコンサートに娘を送り出す時、母親が優奈の髪を結うシーンがいい。
父は、ただ黙ってそれを見ている。

気にかかることもある。
母明美は、家族と離れていて数年がたっている。
その間にどういうことがあったのか、姉の美奈(早織)に何故つきっきりになっていたのか、この作品では触れられていない。
姉が、母親の気持ちを代弁するシーンは、明美の背負う宿命みたいなものを表現しているともとれるし、彼女に何があったかも想像することはできる。
言葉少ない母親の表情には、うっすらと苦悩も読み取れる。
この物語が、どこまでも中学生である優奈の目線で描かれているからだ。

出演者の中学生は、三好彩花以外みんな沖縄育ちだそうだ。
彼女は、三線と民謡は2か月間の特訓だったそうで、見事な歌声をも披露している。
寡黙ながら、温かな眼差しで子供たちを見守る島人を演じて、小林薫もわるくない。
母としての強さや優しさ、そして複雑な心の葛藤を抱え、難しい役どころの大竹しのぶもいい。
新星三吉彩花は、07年の女優デビューで、彼女自身も昨春中学を卒業したばかりで、すらりとした体形と澄んだ目で、素直な心の内面を保ちつつ、日々変貌していく少女の姿は、いまでは大人っぽく見えて確かな将来性を感じさせる。

吉田康弘監督「旅立ちの島唄~十五の春~」は、ボロジノ娘たちの歌う南大東島の島唄「アバヨーイ(さようなら)」とともに、忘れがたい印象を残す作品だ。
際立った大きな出来事はないが、しみじみと温かい映画である。
大東島は、外海に囲まれていて波が高く、船が接岸できないのでクレーンを使って乗降する。
沖縄県でも、この島の存在は知っていても、実際に訪れる人は少なく、映画の舞台となった、面積わずか31k㎡のこの孤島への興味はつきない。
こんな絶海の孤島に、1300人もの人たちが溌剌と暮らしていることをご存じだろうか。
      [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点


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2 コメント

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沖縄 (茶柱)
2013-05-22 22:41:30
沖縄ですら行ったことありませんのに,その沖縄の方ですらあまり行かない島ですか。

そういう島の景色を堪能できるのも映画,ですね。
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南大東島とは・・・ (Julien)
2013-05-25 18:08:33
名前だけは聞いていましたが、遥かに遠い島なんですね。
映画やテレビがなかったら、島のこともわからなかったかもしれません。
この島での撮影も、全島民が協力、参加してくれての映画作りだったそうで・・・。
よいことです。
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