徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「ゆずり葉の頃」―人と人のつながりを綴る清廉な恋の抒情詩―

2015-07-17 11:00:00 | 映画


 今年77歳になる中みね子監督は、娯楽映画の岡本喜八監督の妻として、またプロデューサーとして支えてきた人である。
 老婦人の夢と現実を見つめる作品を、女優八千草薫を起用して映画化した。
 八千草薫・谷口千吉監督故人)は、岡本喜八監督の師匠で、夫妻で結婚の仲人をしてくれた間柄だそうだ。
 中監督は自ら脚本を書き、77歳にして初メガホンで撮り終えたこの作品は、絵筆が心のキャンバスにあえかな旋律を刻み込むように、叙情豊かに遠い日々の詩情を綴る・・・。

 人は、年を重ねて見えてくる風景もあるものだ。
 そんなことに気づかせてくれる作品だ。
 登場人物は善人ばかりだが、それはそれでよいではないか。








海外から、息子の進(風間トオル)が一時帰国してきた。

独り暮らしの母親・市子(八千草薫)を訪ねたが不在で、市子は軽井沢へ旅立った後であった。
市子は、画家の宮謙一郎(仲代達矢)の個展で、以前から気に入っていた「原風景」の原画に触れたいと思っていた。
会場にはその絵は展示されていなかったが、出会った人に導かれるように、いまは国際的な画家となった宮の軽井沢のアトリエを訪ねることになる。

一人旅に出た母を気にかけ、そのあとを追う息子の進であったが、彼はまだ知らない。
かつて、着物の仕立てをしながら、戦後の貧しさの中で、心に封印していた若き日の母の想いを・・・。
軽井沢で人のぬくもりに触れ、優しくほどけてゆく市子の心が水面のように揺れる。
過ぎ去った記憶とともに、思いがけない出逢いがもたらされる。
・・・しかしその人は、ある理由を抱えて、フランス人の夫人と軽井沢でひっそりと暮らしていたのだった・・・。

主人公の思い出の地、龍神池のシーンが美しい。
淡い恋心が胸にしみるようだ。
一枚の絵を求めて旅立つ女性を演じて、八千草薫の表情は老いてなおみずみずしく見える。
ほとんど全編が軽井沢で撮影され、個展会場も彼女が通う喫茶店も本物だ。
岡本喜八監督の演出テンポとは違って、中監督のこの作品は実にゆったりとしたテンポで、それはもう八千草薫のテンポに合わせて作られているからだ。

若い世代に向くようなアクティブな作品ではないけれど、詩情は豊かである。
大人の童話だ。
中みね子監督は全くの新人監督だが、立派なデビュー作である。
映画「ゆずり葉の頃」は、ファンタジーの要素も入れて、CGなど一切使用せず、どこまでも優しい視点で見つめた思いを貫くささやかな人生讃歌だ。
ただ一部画調のややくすんだ感じの色合いは気にもなったが、作品のつくりは丁寧でしなやかさがある。
出演者も他に、岸部一徳、竹下景子、六平直政、本田博太郎ら実力派俳優陣ががっちりと脇を固めているのは、何とも頼もしい。

ゆずり葉は、若葉の成長を待って、やがて譲るように落葉する。
青いままで落ちることが多い。
「人間は肉体が衰えても、精神は変わらない。恋をしてもいいと思う」
「ゆずり葉の頃」は、老いと死を前に、身の処し方を主人公・市子に重ねあわせたタイトルだ。
      [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点
次回はポーランド映画「パプーシャの黒い瞳」を取り上げます。


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2 コメント

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たまには (茶柱)
2015-07-17 22:30:19
こういう叙情的な作品もよいですね。
ゆったりした時間はいいですねえ・・・。
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ゆったりとした・・・ (Julien)
2015-07-19 20:28:01
時間の流れをは望むところですが、日々せかせかとした生き方に慣れてしまっていると、妙に戸惑いを覚えました。
いや、決して悪い意味でありませんが・・・。
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