徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「イースタン・プロミス」ー闇の中の天使と悪魔ー

2008-07-15 20:00:00 | 映画

現代の鬼才と評される、デヴィッド・クローネンバーグ監督の、イギリス、カナダ合作映画である。
アカデミー賞など35賞に、ノミネートされた作品だ。

一少女の日記が秘めた、イギリス、ロンドンの闇に巣食う犯罪組織の影・・・。
表裏の世界に生きる、人間たちのドラマだ。
R-18指定映画で、刺激臭が強く、冒頭から思わず目を覆いたくなるようなシーンは衝撃的だ。
拳銃ではなく、ナイフを手にする格闘は残虐で、こういう映画をクライム映画とか、バイオレンス映画と呼ぶのだろう。
言ってみれば、ややグロテスクなシーンを、いやおう無しに見せつけられるのだ。
物語そのものは、さほど複雑ではない。むしろシンプルだ。

イギリス、ロンドン・・・。
クリスマスを目前に控えた、或る夜のことであった。
助産婦として、アンナ(ナオミ・ワッツ)が勤める病院に、身元不明の少女が運び込まれた。
彼女は身ごもっていて、女の子を出産ののち息を引き取ってしまった。
手術に立ち会ったアンナは、彼女のバッグの中から日記を取り出した。
孤児となった赤ん坊のために、少女の身元を何とか割り出そうと考えたのだった。
日記はロシア語で書かれており、そこには、“トランスシベリアン”というロシア・レストランのカードが挟みこまれていた。
ロシア人とのハーフでありながら、ロシア語の解らないアンナは、カードを頼りにレストランを訪ねる。

その店の前で、アンナは謎めいた男と出会った。
ニコライ(ヴィゴ・モーテンセン)という名前のその男は、悪名高きロシアン・マフィア<法の泥棒>の運転手で、組織の跡取りであるキリル(ヴァンサン・カッセル)のために働いていた。
ニコライは、エンジンのかからないバイクを前に困惑するアンナを、車で家まで送り届ける。

やがて、少女の日記を読んでしまった、アンナのロシア人の伯父が、彼女にこの事件に深入りしないように忠告する。
日記には、ロシアン・マフィア<法の泥棒>が関わる、「イースタン・プロミス」=人身売買についての、恐ろしい事実が記されていたのだった。
かつて、流産した辛い過去を持つアンナは、子供のことだけを考えており、「日記」と引き換えに、少女の身元を教えてもらうという取引をマフィアと交わすことになる。
その取引の場所に現れたのは、ニコライであった。
しかし、日記を渡すアンナに、彼は彼女の身元を伝えなかった。
そして、今回の事件のことは忘れ、自分たちには近づくなと、アンナに忠告した。

秘密を知ったアンナへの忠告を聞いて、時折優しさを覗かせるニコライに、はからずも惹かれはじめている自分に、アンナは気づくのだった・・・。
謎だらけの、闇の世界に生きる男ニコライ・・・、本来会う筈もなかった二人を、運命が引き寄せ、物語は、静謐だが重厚なクライマックスへと突き進んでゆく・・・。

映画「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズで、勇者役を演じたヴィゴ・モーテンセンが、謎めいた複雑な個性を持つ男ニコライを、完璧なまでに演じきっている。
公衆浴場での、全裸の恐ろしいまでにリアルな格闘といい、その陰影に富んだ演技は迫力と凄みさえある。
ヒロインには、透明感のある美しさで定評のあるナオミ・ワッツで、悲しい過去を背負いながらも、小さな命ゆえに奔走する女性の心の動きを繊細に表現している。
どうやら、この二人のコンビネーションが、作品の‘核’をなしているようだ。

・・・私には、果たすべき約束がある。たとえ、あなたが何者であっても・・・。
男と男、そして男と女が絡み合う運命の中で、決して多くを語ろうとしない、ニコライの孤独と秘密を湛えた姿が、悲しみの宿命のように浮き彫りにされる。
ニコライは何者なのか・・・?

デヴィッド・クローネンバーグ監督は、普通のギャング映画ではない、家族のドラマや文化の衝突を描きたかったと言う。
さて、どうだろうか。
ロンドンに巣食うロシア人犯罪組織を横軸に、犯罪映画やギャング映画といった、古典的なジャンルに近い雰囲気を醸し出している。
一種のホラー映画のように観ることも出来る。

イギリスでは、或る時期、売春目的の人身売買は一大産業だった。
警察の記録によれば、その大部分は東欧出身者による犯罪だったそうだ。
映画のタイトルにもなっている「イースタン・プロミス」とは 、「東欧・ロシア」からやって来た貧しい女性に良い生活を「約束する」という意味なのだ.
FBI(アメリカ連邦捜査局)に国際指名手配されていた、セミオン・マギレビッチは、ウクライナのマフィアのヴォール(大親分)だったそうだ。
2008年に、モスクワで逮捕された。
この男と偶然同じファーストネームのヴォールが、この作品の中に登場するキリルの父親セミオン(アーミン・ミューラー=スタール)である。
・・・そして、何を隠そう、彼が14歳のロシア人売春婦を強姦し、妊娠した彼女が病院に運び込まれ、死亡するところから、このストーリーは始まったのだ・・・。

マフィアの世界でしか生きられない男たちと、それに翻弄される女・・・。
映画 「イースタン・プロミス」 は、スタッフ、キャストにも恵まれ、よく出来た映画だが、あっと驚くような衝撃のシーンも多く、一般向きとは言えないかもしれない。
観るには、かなりの勇気が必要だろう。

 


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2 コメント

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渋い! (茶柱)
2008-07-16 00:38:58
渋い映画ですね。珍しいチョイスかも・・・。こういうクライムムービーもたまには・・・。
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渋い・・・ (Julien)
2008-07-17 03:59:44
と言えば、かなり渋いで~す。はい。
こういう類(たぐい)の作品が、外国の映画賞にノミネートされたりして、結構高い評価を得ていたりするんですね。




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