徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「オン・ザ・ミルキー・ロード」―ファンタスティックで奇想天外な愛の逃避行―

2017-10-09 17:00:00 | 映画


 世界三大映画祭を制覇した 「アンダーグラウンド」(1995年)、「黒猫、白猫(1998年)などの旧ユーゴスラヴィア出身の現ボスニア・ヘルツェゴビナのサラエヴォ出身、名匠エミール・クストリッツア監督による9年ぶりの新作だ。
今回は、主演も務め、戦争の終らない架空の国を舞台に、恋人たちの壮大な逃避行を描いた。

戦争の愚かさ、情熱的な恋、狂祭のダンス、温かなユーモアをいっぱいに詰め込んだ秀作と言っていいかもしれない。
これらはすべて、エミール・クストリッツア監督のエッセンスだ。
全編セルビア語が使われており、予測不可能なストリーテリングに、映画終盤まで圧倒される。




戦火の中にある架空の国・・・。
右肩にハヤブサを乗せたコスタ(エミ-ル・クストリッツア)は、村からの戦線の兵士たちにミルクを届けるために、毎日銃弾を交わしながらロバに乗って前線を渡っている。
国境を隔てただけの、すぐ近場同士で続く殺し合い・・・、この戦争はいつ終わるとも見当がつかない。
そんな死と隣り合わせの状況下でも、村々にはのんきな暮らしがあった。

母親と一緒に住んでいるミルク売りの娘ミレナ(スロボダ・ミチャロヴィッチ)は美しく活発な魅力があり、村の男たちはメロメロだ。
そのミルクの配達係に雇われているのがコスタだ。
ミレナはコスタに思いを寄せているが、コスタの方は彼女の求愛に素っ気ない。
そんな折り、ミレナの兄ジャガ(マノイロヴィッチ)のところへ、イタリアから流民の美女(モニカ・ベルッチ)がやって来る。
流民の彼女は、しかし、戦争の悲惨を経験しているコスタと惹かれあい、二人は村から愛の逃走へと勝負に出る・・・。

リアリズムと幻想性が融合した、愛の寓話である。
通常の人知を超えた、ハヤブサ、蛇、蝶、蜂、ガチョウ、鶏、クマといった動物が神話のようにあふれて活躍する。
それはまるで動物映画のようでもあって、賑やかな生命力にあふれている。
これらも、本物の実写にこだわり続け、撮影は三年もの長期にわたって行われた。
動物たちや自然とのコミュニケーションも健在だから、圧倒的な愛とエネルギーで、特異なワイルドを構成する鬼才エミール・クストリッツア監督に、熱狂するファンが多いのも理解できる。

当然、ドラマの奇想にも溢れていて、なおかつ、繊細と悲しみを帯びている。
全編を彩る特製なバルカン・ミュージックも、クストリッツア監督息子ストリポールとあって、様々な挿入歌ともどもこれまた映画を一段と盛り上げている。
作品はエネルギッシュで深みもある。
セルビア・イギリス・アメリカ合作映画「オン・ザ・ミルキー・ロード」は、緊迫した戦闘と牧歌的な村の生活と愛がこんなにもユーモラスで可笑しく、不条理溢れる描写が異色で魅力的だ。
人間の多くの戦いを俯瞰する動物や島、聖書や民話のような世界が展開し、まさに暴力の中に描かれる平和と愛がこんなにもユーモラスで、可笑しく、しかも何ともも哀しい作品に観客は翻弄されるばかりだ。
悲劇と喜劇が混然一体となって描かれる、異端児監督の不思議な詩情さえ感じさせる作品だ。
この寓話的世界の底流に流れるものは、戦争と迫害に対する自由と愛の尊さだろう。
面白い映画だ。こんな映画もあっていい。
         [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点
次回はフランス映画「愛を綴る女」を取り上げます。


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2 コメント

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ミルキーロードというから (茶柱)
2017-10-09 23:44:48
てっきり宇宙的なお話しなのかと思ったら、ファンタジックなお話しなのですね。
それにしても戦闘シーンのリアリティが生半可なものではありませんね。
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ファンタジックな話ですが・・・ (Julien)
2017-10-15 09:56:37
面白おかしく、よくできたお話でした。
結構楽しめますしね。はい。
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