徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「愛、アムール」―幸福な夫婦が老いて迎える人生の最終章―

2013-03-15 11:00:00 | 映画


壮絶で痛ましいが、端正な愛の物語だ。
ミヒャエル・ハネケ監督の、フランス・ドイツ・オーストリア合作映画である。
老いた夫婦の献身は、凄まじくも厳粛で残酷だ。
そして、看過することのできない、現実的なドラマだ。

ミヒャエル・ハネケ監督は、この作品で、2回目カンヌ映画祭最高賞パルムドール先日の米アカデミー賞外国語映画賞受賞した。
実に完成度の高い作品だ。
高齢化社会の厳しさを、見事なまでに描き切った。
無駄のない、研ぎ澄まされた映像は、必要にして簡潔、そこには感傷など一切ない。
ハネケ監督は、人間が死に向かうときの、ひとつの愛のあり方をどこまでも冷静に見つめる。









          
ジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)とアンヌ(エマニュエル・リヴァ)の夫婦は、80代の元ピアノ教師で、パリの高級アパルトマンで穏やかに暮らしていた。
ところが、ある日突然妻が病に倒れ、日常が暗転する。
妻は病院嫌いになっていて、入院だけはしたくないと、自宅にこもってしまう。
しかし、アンヌの身体には麻痺が残り、車椅子の生活を余儀なくされ、変わり果てた姿を見られたくないと、ますます閉じこもりがちになる・

妻アンヌは、さらに認知症の症状も現れるが、養老院のような施設には入らず、通いの介護人に頼る日々だが、雇い入れても人扱いが気に入らず数日で解雇してしまった。
夫のジョルジュは寡黙だが、ひとりで妻の介護を続ける。
アンヌの症状は確実に悪化し、心さえも失っていく。
長年連れ添い、幸福な家庭生活を送ってきて、妻を愛しているがゆえにその意思を尊重し、自宅で献身的に介護を続けるジョルジュだった。
しかし、次第に意思の疎通も難しくなり、妻との生活は徐々に追い詰められていく・・・。

ドラマは、二人の幸せそのものの生活から始まり、徐々に進行する介護の難しさを、ハネケ監督は丁寧に細やかに描いていく。
主演の二人、「男と女」(1966年)ジャン=ルイ・トランティニャンと、「二十四時間の情事」(1959年)エマニュエル・リヴァの演技が素晴らしい。
美しいフランス語の日常会話が、端的に簡潔に、そして知的にドラマを綴っていく。
二人の名優も、いま美しく老いて風格がにじみ出ている。

心身の自由が失われていく老婦人の変化を、壮絶なまでに演じきったエマニュエル・リヴァは、名作「二十四時間の情事」で、広島の原爆と自信の
戦時中の体験に深く思いをはせる、理知的な女性を演じていた。
そう確か、共演者は今は亡き岡田英次だった。
いい映画であった。

これまで疑惑と不信、暴力、狂気を描き、2009年には悪意に取り憑かれた村の悲劇を描いた「白いリボン」(2009年)でも、パルムドールに輝いたハネケ監督は、ここではひと組の夫婦の、静かな老境の愛の行く末を見つめた。
ミヒャエル・ハネケ監督フランス・ドイツ・オーストリア合作映画「愛、アムール」は、誰でもが必ず迎える「老い」と「死」を描いて、容赦ない誠実さは傑作に近い。
静かな画面だが、ひとつひとつ息詰まるような場面から目が離せない。
アパルトマンの中庭側の窓から、いつのまにか一羽の鳩が迷い込み、廊下をうろつく。
それを、夫は毛布を持って追いかけると、鳩は逃げまどい、やがて開けられた窓から飛び出していくシーンがある。
その閉ざされたかに見える空間に、鳩は二度にわたってっ侵入するのだが、このシーンなど、物語のまさしく終章を暗示する場面ではないか。

ドラマは、淡々とした日常を通して、老いてもなお美しい夫婦愛を描いている、
在宅医療という選択は、この作品では究極の愛の形だ。
そしてそこは、老老介護という在宅医療の現場だ。
この作品の舞台はフランスだが、医療の不確実性、訪問介護、男性介護、介護ストレス、家族との関係性といった、日本人の考えておくべき終末医療の現実とどう向き合うかという問題を、高い芸術性をもって直視している。
大変重いテーマだが、あえてそれを描いた秀逸な作品だ。
     [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点


最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
介護 (茶柱)
2013-03-15 23:11:36
これはこれからもヘビーな問題であり続けるのでしょうね。
一律の解など無い問題として。
返信する
人間の愛と尊厳・・・ (Julien)
2013-03-20 09:44:42
誰もがいずれは直面する、身近な問題を捉えて、いろいろと考えさせられる作品ですね。
いろいろな問題もさることながら、名優二人の心理描写がすぐれています。
実に、上手いものです。
余計なセリフがなく、簡潔そのもの、監督(ミヒャエル・ハネケ)自身のいい脚本だからということも・・・。。
それにハネケ自身も、家族が、ドラマと同じような経験をしているということです。
返信する
フランス ドイツ オーストラリア (ザ・村石太)
2013-03-26 21:26:09
合作映画で プログ検索中です
合作映画は スゴイ映画が 多いですね
映画同好会(名前検討中
返信する
ザ・村石太様・・・ (Julien)
2013-03-29 09:15:09
コメントを有難うございます。
合作映画といっても、ロケ地や、監督や製作者がドイツ人でも、俳優陣、スタッフがフランス人やアメリカ人など他国人であれば、合作ですものね。
それが功を奏して、成功している作品は結構多いようですね。
中には10か国合作なんていうのも・・・。
返信する

コメントを投稿