徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「あの日の指輪を待つきみへ」ー愛、喪失と復活ー

2008-07-19 21:00:00 | 映画
アイルランドで発見された、金の指輪が紡ぎだす、愛の物語だ。
眠り続けていた愛が目覚め、封印されていた秘密が明かされていく・・・。

この作品は、映画「ガンジー」アカデミー賞に輝いた、名匠リチャード・アッテンボロー監督の、イギリス・カナダ・アメリカ合作の一応ラブストーリーだ。
これも、小さな実話から発した物語だ。
人生が続く限り、愛は終わることはない。
一人の女を演じ分ける、ハリウッド大女優シャーリー・マクレーンが懐かしい。
でも、この女優さんも、さすがに御年を召したなあと、思わずにはいらない。

或る日、アメリカに暮らすエセル・アン(シャーリー・マクレーン)のもとに、アイルランドからの報せが届く。
エセルの名前が刻まれた金の指輪が、ベルファストの丘で発見されたと言うのだ。
彼女は、長年連れ添っていた、夫チャックを亡くしたばかりだった。
娘のマリー(ネーヴ・キャンベル)には、多くを語ろうとはしなかった。
 「私の人生は21歳で終わったのよ。今さら何を嘆くの?」
彼女は涙ひとつ見せなかった。

マリーは、両親と青春の日々を共にした、親友ジャック(クリストファー・プラマー)に真相を尋ねるが、彼は、瞳に悲しみを湛えているだけで、何も語ろうとはしない。

指輪が、何故アイルランドの地に埋もれていたのか。
指輪には、もうひとつの名前「テディ」が刻まれていた。
実は、50年前、若き日のエセル・アン(ミーシャ・バートン)が、愛を誓い合った青年兵士がテディ(スティーヴン・アメル)だったのである。
二人は、ひとつしかないその‘結婚指輪’に、記念に二人の名前を刻んでいたのだった。
そのただひとつしかない指輪を、エセルは戦場に行くテディに贈ったのであった。
彼が、恋人の証として、父親の残した土地に家を建設している最中に、戦争が勃発した。
出撃命令が下り、「もし僕が死んだら、頼みがあるんだ」と、二人の親友ジャックチャックに、自分の思いを託して爆撃機に乗り込み、戦地に旅立ったのだった。

いつも、戦争は大切なものを奪っていく。
不幸なことに、テディの乗った爆撃機は、ベルファスト上空から、悪天候のために丘へ墜落炎上してしまった。
遺体は発見されず、戦死報を受けても、エセル・アンは諦めることができなかった。
指輪を見つけた青年ジミー(マーティン・マッキャン)が、はるばるアイルイランドからエセルの家を訪ねて来たとき、ついにエセルは決意する。
50年前に、自ら封印した運命の愛に向き合うことを・・・。
そして、二つの時代、二つの国を結ぶ<愛の旅>が始まる。

この世の中で、失くした愛ほど美しいものはない。
時が経てば、悲しみさえも熟した甘い果実となって、再び傷つくことを恐れる恋人たちを過去の小部屋に閉じ込める。
しかし、勇気を出して、若き日の悲恋に決着をつける旅に出たエセルは、運命の愛は一度きりではないのだという、人生の素晴らしい真実を知る・・・。

いささか甘いこのストーリーも、それなりに楽しめばよろしいわけで、それにしては現在から過去へのフラッシュバックが忙しく、まごつきながら展開に気を取られるという有様だ。
物語は、1941年から1991年までの時代、50年という長い時空を、幾度も幾度も一跨ぎするのだ。
設定は、シンプルに見えてやや複雑だ。
ドアを開けると、そこにミーシャ・バートン(若き日のエセル・アンが現れるのか、シャーリー・マクレーン(50年後のエセル・アンが現れるのか、その瞬間まで解らない。

リチャード・アッテンボロー監督は、今年85歳だ。
いまなお現役で、フランス政府から芸術文化勲章やレジオン・ド・ヌール勲章を贈られるなど、華々しい経歴とともに健在だ。

今回、映画作品としては、特段の目新しさと言ったものはない。
一人の女性に、複数の男性が思いを寄せるという構図も、ごく普通の愛の物語だ。
その域を出ていないのは、ヒロインの50年と言う歳月の重みの中での、苦悩、悲哀、希望、悔悟といったものが全く深く掘り下げて描かれていないことだ。
男たちの友情、恋、嫉妬、羨望、失望などもあまり描かれていない。浅すぎるのだ。
大切なことが、全て通り一遍なのだから参った。
これでは、アカデミー賞の巨匠の名が泣くだろう。
どんなによきテーマであっても、感動させる心理描写の少ないドラマほど、つまらないものはない。
(テレビドラマにも同じことが言える。)
もっともっと、細部の描写があってしかるべきだし、どうも‘描写’不足のようである。
観客の想像に任せる、余韻というようなものではない。
“人間”の描き方が足りないのだ。
ただただ、俳優たちの質の高い演技に支えられて、ひとまずロマンティックな物語には仕上がったと言えるだろうか。

リチャード・アッテンボロー監督あの日の指輪を待つきみへは、或る意味では、‘約束’に囚われた人々を開放する物語なのかも知れない。
脚本家(ピーター・ウッドワード)は、ベルファストで指輪が発見されたと言う報せに、かくも想像力を掻き立てられるものなのだろうか・・・。
彼は、「これこそは、映画にうってつけの素晴らしい素材だと感じた」と、のちに述べている。



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2 コメント

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描写ばかりは (茶柱)
2008-07-19 23:07:53
予告編からはわかりませんね(笑)。
でも、脚本家の発想と言うのは凄い物がありますね。
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いい作品は・・・ (Julien)
2008-07-22 03:51:56
監督の力はもちろん、脚本、俳優、美術、音楽カメラなど、選りすぐれた才能がひとつになって、出来上がるものなんですね。
解りきったことですけれど・・・。
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