徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「パパの木」―苦しみを超えて生きる母娘の再生の物語ー

2013-08-26 12:00:00 | 映画


「やさしい嘘」(03)でデビューした、ジュリー・ベルトゥチェリ監督が7年間の時間を経て発表した、フランス・オーストラリア合作映画だ。
オーストラリアの雄大な自然を舞台に、突然愛する家族を失くした母と娘の再生のドラマである。

いつもよく映画のテーマとなる、大切な人を失ったときその家族はどう生きるかということを、この作品は温かな眼差しで綴っている。
人には必ず、大切な人との別れがある。
そして、それは突然訪れる。
ジュリー・ベルトゥチェリ監督自身、予期せぬ夫の死を乗り越えて完成させた作品で、美しい田園風景を背景に、生きることの喜びを込め、おかしみと優しさに満ちている物語を誕生させた。
















      
オーストラリアの大自然の中、庭に大きなイチジクの木のある家で、ドーン(シャルロット・ゲンズブール)とピーター(エイデン・ヤング)は、4人の子供たちと幸せに暮らしていた。
ところがある日、ピーターが長期の仕事の帰りに、心臓発作を起こして死んでしまう。
夫の突然の死で、その喪失感からドーンの思考は停止してしまい、子供の世話どころか日常生活もままならない。
高校生の長男は、亡き父の役目を果たそうとアルバイトを始める。
そして、8歳の末娘シモーン(モルガナ・デイヴィス)は、死の意味さえ理解できず、父親が死んだときにふとぶつかった庭の木に「パパがいる」と、木とお喋りを始めるのだった。
またシモーンは、なかなか立ち直れない母親を元気づけようと、木にパパがいるという“秘密”を教えてあげようとする。
はじめは真に受けないドーンだったが、木に導かれるように話かけるようになって、徐々に心の平静を取り戻していくのだった。

ようやく動き出したドーンは、これまで働いたことなどなかったが、自分で仕事を見つけ、そこで雇い主のジョージ(マートン・サーカス)との関係が親密になり、明るさを取り戻していく。
しかし幼いシモーンは、母親ドーンがジョージと仲良くすることが気に入らない。
シモーンは、女として再び花咲かせようとする母親の気持ちを敏感に感じ取り、その抵抗から木の上で生活を始めるのだった。
・・・こうして、それぞれが少しずつ動き出した家族たちだったが、父親の死から一年後、ついに事件が起きる。
それに呼応するかのように、木は成長し、家族の生活を脅かし始める。
そこへ、想像を超えた大きな嵐がやって来た・・・。

大切な人の記憶を大木に重ね、その記憶を断ち切れずもがく家族がいる。
ここでは大木も、重要な“登場人物”のひとりなのだ。
オーストラリアで、2年もかけて1千本以上を見て回った中から、選ばれし大木だそうだ。
なるほど、見れば見るほど立派な木だ。素晴らしい。
ジュリー・ベルトゥチェリ監督は、この映画の中で、シャルロット・ゲンズブール演じる母親と、モルガナ・デイヴィス演じる8歳の娘との関係性を大事にしている。
父親を失くしたシモーンは、自分がしっかりしなければと自覚を持ちつつ、ある日母親にほかの男の影を見てしまったことで、父親だけでなく母親をも失ったように感じてしまうのだ。

こんな時の母親は、本当は強くなければならないのに、逆に弱さや脆さを露呈していく。
このあたりの描写は、とても繊細で細やかによく描かれている。
子役のモルガナ・デイヴィスの演技も上手いし、笑顔など観ていて、何という愛らしい少女かとすっかり魅せられてしまうほどに可愛い。
2001年生まれの彼女は、この作品での映画デビューとなったが、撮影当時はまだ7歳半だったそうだ。
彼女は、イチジクの木に登って遊ぶことが大好きで、このことは映画にも不可欠の要素だった。
そして、幼い彼女の演技は、なにせ驚くほど完璧だった。

あどけなさを持ちながらも、ときに大人のような表情を見せる新星モルガナ・デイヴィス、そして実生活でも3人の子供の母であり、少女っぽさを兼ね備えた等身大の母親像を演じるシャルロット・ゲンズブール、この二人の持ち味を存分に発揮した珠玉のような小品である。
ジュリー・ベルトゥチェリ監督ヒューマンドラマ「パパの木」は、その美しい映像とともに、一本の大きな木の下で繰り広げられる、心温まる寓話だ。
     [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ファンタジックな (茶柱)
2013-08-26 23:23:59
作品なんでしょうかね。
幼い子にとって親の存在は大きいのでしょうね。
返信する
切っても切れない・・・ (Julien)
2013-08-29 20:22:22
親子のつながり、というではありませんか。
子は母を想い、母は子を想うといいます。
夫婦は仲の良いことが望ましいですが、たとえそうでなくても、子にとって、できれば父親と母親と2人そろっていてほしいものです。
やむなく父子家庭、母子家庭で育てられる子もいますけど・・・。
返信する

コメントを投稿