アンジェリーナ・ジョリー、ジョニー・デップといった、当代きっての人気スターの共演が、話題をさらっている。
映画の人気の方が、かなり先行している。
フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督の、アメリカ映画だ。
この人はドイツ人で、他の主要なキャストも含めて、スタッフ全員がアカデミー賞受賞か、もしくはノミネートの経験者だ。
キャスト、スタッフ、そして舞台と、これだけでもなかなか豪華な布陣だが…。
主演二人の、ゴージャスな魅惑の旅で起こる、ラブ・サスペンスである。
イタリアの水の都ヴェネチアを舞台に、追う者、追われる者たちの、ちょっぴりミステリアスなドラマだ。
でも、それにしてはありきたりの設定で、物語の底が浅い。
どうやら、そんなに大騒ぎするほどの作品ではない。
アメリカ人旅行者フランク(ジョニー・デップ)は、パリからヴェネチアへ向かう列車の中で、謎めいた美女エリーズ(アンジェリーナ・ジョリー)と出会う。
フランクは、彼女に誘われるままに、ヴェネチアの超一流ホテルにチェックインする。
二人は、そこで、夢のようにゴージャスで、ロマンティックな時を過ごすのだった。
しかし、一夜明けると、悪夢とも思える、怖ろしい運命が待っていた。
フランクは、エリーズの恋人で誰にも顔を知られていない大物犯罪者と、同一視されることになってしまった。
そして、捜査当局と巨大マフィアの双方から、追われる羽目になったのだ・・・。
フランクは、自分の恋人の身を守ろうとするエリーズに、利用されていることに気づきながら、危険に身を投じていくことになる。
二人は逃亡するうちに親しくなるが、度重なる危険から、フランクはエリーズにその命を救われる。
ことのすべてを知ってからも、彼は、今度は自分の体を張って、エリーズを守ろうとするのだった。
それは、エリーズの優しさやたくましさに、男としてひかれていったからであった。
・・・やがて、事件の真相が、迷路の謎解きのように明らかにされていくのだが・・・。
ヴェネチア、そこは、光と影が怪しく揺らめく水の都だった。
周囲に張りめぐらされた、迷路のような罠からの、フランクとエリーズの脱出劇が見ものだ。
この危険な旅の果てに、どんな結末が二人を待っているのだろうか。
…なんて言うと、どうしたってミステリーな展開に期待が高まるところだが、さて・・・?
ジョニー・デップは、ジャック・スパロウなどこれまでのあくの強い役ではなく、今回は美女に誘惑される、どこにでもいるような男を演じ、気取りのないのがよろしい。
パリに住む、謎の女を演じるアンジェリーナ・ジョリーの、ファッションやメイクも注目なのだろうが、ドラマとしての映画にとくに新鮮さは感じない。
ドラマは、ハチャメチャでテンポもサスペンスもありだけれど、何だか少し馬鹿馬鹿しい。
それよりは、ヴェネチアの運河やサン・マルコ広場、老舗ホテル「ダニエリ」など観光スポットの方が気になる。
映画の楽しみ方は、いろいろあって結構だ。
そのひとつは、華やかなスターが躍動するさまを、大写しで堪能できることだそうだ。
そうした好みは、人によって違うだろうし、様々だ。
物語性にとらわれていると、ドラマも陳腐で、男と女のありふれた出会いから、二人が一緒に旅をしながら、実は、事件の渦中にはまり込んでしまうというような筋立ては、もう散々見飽きていて、新味に乏しいものだ。
アメリカ映画「ツーリスト」のアイデアそのものは、アンジェリーナ・ジョリーからの提供を受けて、ドナースマルク監督がラブスートリーに仕立てたといわれる。
彼女自身の、強いキャラクターを生む潜在性は、彼女自身と重なる部分も感じられなくはない。
監督がヨーロッパ出身だからか(?)、アメリカ人観光客を皮肉るジョークも出て来たりして、完璧な英語を使うはずのイタリアのホテルで、あえてスペイン語で対応するあたりは、お笑いである。
何はともあれ、どうしても内容より、人気先行タイプの作品だ。
ドナースマルク監督は、一度ラブストーリーを撮ることにこだわりがあったようだが、前の初長編「善き人のソナタ」(アカデミー賞外国語映画賞受賞)の方が、人間の心の深奥に迫る、すぐれた作品だっただけに、どうしてもあちらの方に強い印象がある。
余談ながら、本作「ツーリスト」のPRで先日来日したジョニー・デップは、今春(5月)公開予定のシリーズ4作目「パイレーツ・オブ・カリビアン」(3D同時公開)で共演した、19歳のモデル兼女優クリステン・スティーブンソン・ピノに夢中なのだそうだ。
いま、この30歳近くも年下の女優とのゴシップが、彼と事実婚を続けている女優兼歌手のバネッサ・パラディを悩ませているとかいないとか・・・。
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スターが霞まないように、ストーリーは単純に、単純に。
登場するだけでもです。
極端な言い方をすれば、物語などなくたって、絵になるというあれでしょうか。