徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「空海―KU-KAI―」~美しき王妃の謎に挑む~

2018-03-01 17:20:00 | 映画


 中国王朝最大の謎に挑む映像叙事詩である。
 夢枕獏「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」を、カンヌ国際映画祭などで常連の中国のチェン・カイコー監督が映画化した。

 チェン・カイコーというと「さらばわが愛 覇王別姫」(1993年)、「始皇帝暗殺」(1998年)などで知られるが、この作品は歴史をさかのぼる1200年以上も前の、絢爛豪華な映像と謎解きに驚愕の真実をさぐる冒険奇譚だ。






1200年以上前の中国長安・・・。
この国際都市で怪事件が起こる。
都の役人や権力者が、次々と不可解な死を遂げる。
遣唐使として居合わせた空海(染谷将太)は、詩人白楽天(ホアン・シュアン)ととものその謎を追う。
彼らの行く先々には、いつも黒猫が現われ、この妖猫に導かれるように、長安を走り回るうちに楊貴妃(チャン・ロンロン)の死にたどり着く。

玄宗皇帝(チャン・ルーイー)に愛された美女楊貴妃は、半世紀前に非業の死を遂げていた。
空海と白楽天は、当時唐にいた阿倍仲麻呂(阿部寛)が、一部始終を目撃していたことを突き止める。
楊貴妃の死の裏に何があったのか。
そして、ときどき姿を見せる不思議な力を持った妖猫の正体は何か。
・・・絢爛たる長安の街で、やがて二人は驚愕の事実を知ることとなる・・・。

これは、日中合作の伝記ファンタジー以外の何ものでもない。
悪く言えば、通俗的な娯楽作品だが、これだけ大仕掛けなセットを組める監督も大したものだ。
原作は「妖猫伝」そうだが、世界的巨匠はただ単に不思議な猫の物語を描きたかったのか。
美術や映像は煌びやかで見事なものである。
しかし、ここまで豪華なセットを見せられると、何か飽きを感じて途中で間延びがして食傷気味ともなる。

空海がどんな修行や体験を積むものかと期待した。
タイトルのわりにはパッとした活躍の場面はない。
全編を通してみると、まるで怪しい猫が主人公みたいだ。
製作費150億円という大作で、長安のセットは東京ドームの8個分だそうだ。
映像と謎解きは興味津々で、日本語の吹き替えのキャストも豪華だ。
だが、これで日本公開版はすべて吹き替え版なのか。
中国語版で観られないのはいかにもにも残念だ。
タイトルの「空海―KU-KAI」も弱い。

CGを駆使して壮大な夢を描いているが、やたらと頼りすぎている。
そんじょそこらでちょこっと撮れるようなお話の映画ではない。
だから、国境を越えた日中合作映画、チェン・カイコー監督の「空海―KU-KAI―美しき王妃の謎」にはかなりがっかりした。

広大なオープンセット、最大1000人のエキストラ、「長恨歌」の話と圧倒的な映像もともかく、知的な好奇心も大いにくすぐられるのだが、歴史ドラマとしてもファンタジックなミステリーとしても作品としては消化不良だ。
CGを多用したファンタジーというのも相性がよろしくないようで・・・。
     [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点
次回はフランス映画「女の一生」を取り上げます。


映画「長江 愛の詩(うた)」―現実と幻想の垣根を超えて大河の流れが象徴的に物語るのは―

2018-03-01 17:16:48 | 映画


 悠久の長江を語る、壮大な叙事詩だ。
 世界最大の三峡ダムが完成するなど、中国社会は大きく変貌を遂げつつある。
 ヤン・チャオ監督が、長編一作目の「Passages」(2004年)に続いて、10年の製作期間を費やして完成させた長編第二作だ。

 比類のない映像世界が圧巻だが、長江は壮大で幻想的な叙事詩のように描かれている。
 この映画は見方にもよるだろうが、現実と虚構、現在と過去が交錯する、なかなかの深遠なラブストーリーでもあるようだ。
 ベルリン国際映画祭では銀熊賞受賞した。




ガオ・チュン(チン・ハオ)は、他界した父親の跡を継いで、老朽化した貨物船の船長になった文学青年だ。
富豪の顧客から、怪しげな積み荷を運ぶ仕事を請け負って、長江をさかのぼる旅に出た。
彼は機関室で、「長江図」と題された手書きの詩集を発見する。
それには、ガオの父親が1989年に創作した幾つもの詩が書かれていた。
ガオはその詩に誘われるように、上海から長江を上流へと向かったが、彼の行く先の港でミステリアスな女性アン・ルー(シン・ジーレイ)と出会う。

二人は出会いと別れを繰り返し、恋に落ちる。
出会うのは、詩に出てくる港ばかりである。
しかし、三峡ダムを境に彼女は港に現れない・・・。

この作品の撮影監督は、「黒衣の刺客」(2015年)などで知られるアジアを代表するリー・ピンビンで、詩的な映像の数々は見応え十分だ。
三峡ダムの完成で、逆に失われた生活や風景に想いをはせ、変わりゆく長江を象徴させる女性として、この女性を登場させていたのだろうか。
2009年に完成したダムは経済発展に大きく貢献したが、上流では水位上昇などで140万人が家や土地を失った代償も大きかった。
美しい景観さえもダム湖に沈み、水質汚染は進んだ。
本編は、中国の今を象徴するかのような映画である。
ファンタジックな山水画の世界に、そうなのだ、現実が溶け込みかけているような・・・。

映画の中に登場するアン・ルーという女性は何者か。
「長江図」とは何か。
はっきりした答えは映画の中にはない。
全ての謎をそのままに受け止めて、想いをめぐらす(?)旅でしかない。
見方によっては、いやまさにこれは一篇の愛の物語か。
何もかもが混沌としていて、理由めいた解釈を求められない。
迫力のある映像詩が続くが、登場人物たちの立場や行動はあいまいで、何を考え、どんな問題を抱えているか。
作者は何を一番言いたいのか。
ヤン・チャオ監督中国映画「長江 愛の詩(うた)」は、山や谷や川が何かを雄弁に語りかけてくるのだ。
現実と幻影が交錯する神秘的な映像詩である。
         [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点
次回は日中合作映画「空海―KU-KAI―」を取り上げます。