1970年~1980年代、写真家・荒木経惟らが連載人に名を連ねた伝説の雑誌「写真時代」というのが あった。
その雑誌の編集長を務めた末井昭の実話をもととしたエッセイを、「南瓜とマヨネーズ」(2017年)の冨永昌敬監督が映画化した。
雑誌「写真時代」は、過激でエロティックな写真で人気を集めていたが、この作品の原作者末井昭は、母親が男とダイナマイト心中したことでも知られる人物だ。
壮絶な体験を主人公が駆け抜けた、この昭和の時代を描いたグラフティで、アダルト雑誌の散乱する中で、ときには卑猥な言葉も飛び交って、雑駁で不思議な世界の雰囲気を醸し出している。
確かに、非日常的なことが日常になると、エロティシズムもエロティシズムとは言えなくなる。
この雑駁なドラマも、今を生きる人間に参考になるようなことも、もしかするとあるかもしれない。
バスも通らない岡山県の田舎町に育った末井少年は、7歳にして母親の衝撃的な死に出会う。
その後都会に憧れ、大阪の町工場に集団就職したが、軍隊のような労働環境に絶望し、上京する。
キャバレーの看板書き、イラストレーターを経て、小さなエロ雑誌の出版社へ。
そして、末井昭(柄本佑)は、編集長としてエキサイトマガジン「ニューセルフ」を創刊し、荒木経惟と出会い、さらに彼のもとには赤瀬川源平、嵐山光三郎、田中小実昌ら錚々たる表現者が集まって来た。
だが、「ニューセルフ」は廃刊になっても、末井は懲りずに、警察とのいたちごっこを繰り返し、新雑誌を作っては廃刊となり、「写真時代」を創刊する。
それは、既存の写真雑誌で排除するような写真ばかりを乗せることをモットーに、35万部まで発行部数を伸ばした。
エキサイティングな‘異端’が大ヒットし、末井昭はひとつの時代の寵児となっていったのだった・・・。
この映画は、末井昭の人生と言葉に感銘を受けた冨永監督自身の持ち込み企画で、7年越しの想いが叶い、念願の映画化となった。
大らかで猥雑な時代の中で、様々な人との出会いと別れを繰り返し、夢と現実とのはざまで自分らしく生きる術を身につけ、主人公の屈託を優しく描き出してゆくのだ。
エンディングでは、原作者の末井昭と母富子役の尾野真千子がデュエットする、主題歌「山の音」がちょっとした聴きものだ。
ダイナマイト心中という衝撃的な母の死・・・。
この数奇な運命を背負って、転がる石のように生きていた末井青年は、昭和後期のアンダーグランドカルチャーを牽引した伝説の雑誌にたどり着いたのだ。
その生き様が、ここには青春グラフティとして描き出された。
何ともざらざらした手触り感の、様々なエピソードをいっぱいに詰め込んで、少々粗っぽい編集に目をつむるとして、「ストリーキング」も圧巻だ。
これぞC級映画の快作となるか。いやいや・・・。
刑事と編集長の論争は面白かった。
冨永昌敬監督の映画「素敵なダイナマイトスキャンダル」は、「タブーなき物語」として、ハチャメチャながらこの作品も半ば成功しているのではないかとも・・・。
[JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点)
次回はアメリカ映画「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」を取り上げます。