「人間の値打ち」 (2013年)、「歓びのトスカーナ」(2016年)でイタリアアカデミー賞を受賞した、名匠パオロ・ヴィルズィ監督が、人生のクライマックスを謳うロードムービーを、アメリカを縦断するルート1号線を舞台に描いて見せた。
人生も夫婦も、予測不可能だ。
それは結構厄介だし、笑いもあれば涙もある。
二人は、残りわずかな夫婦の時間を、最後の旅で彩るのだが・・・。
夫婦生活はもう半世紀である。
妻エラ(ヘレン・ミレン)は、全身に散っているが、末期がんを抱えて闘っている。
元文学教師のジョン(ドナルド・サザーランド)は、アルツハイマーが進行中だ。
二人はとても仲が良く、止めようとする子供たちを振り切って、“キャンピングカー”でアメリカ縦断の旅に出ることになった。
70代の夫婦が、ボストンからフロリダへ。
国道1号線を南へ、行く先にはジョンの敬愛するヘミングウェイの家がある、フロリダのキーウエストを目指すのだった。
実はこの日、エラはジョンを息子に託し、入院するはずだった。
老夫婦の道中は、トラブルとハプニングの連続で、二人は楽しかった思い出をたどる。
しかし、トラブルさえも満喫し、かれらの旅路の果ては・・・?
この作品は意外なラストを用意している。
二人のロードムービーには、楽しい思い出や苦い思い出がいっぱいで、イタリアから招かれたパオロ・ヴィルズィ監督の面目躍如といったところで、映画的には古いハリウッドのイメージと思いきや、とっこいラストはしばし呆然とする展開で・・・。
はしゃぎすぎたそのあとにドカンと重いラストを持ってくるなんて、よくある手法ではある。
作品にはユーモアや希望が溢れていて、とても明るい。
だが、エラの最後の選択には考えさせられてしまう。
彼女は末期がんで死をいつも覚悟しているが、認知症が進むジョンのことは気がかりでならなかった。
ジョンの記憶はいつも曖昧で、隣にいるのは誰かとか、妻を乗せないで車を発車させたり、エラはエラで絶望と希望の狭間を行ったり来たりしている。
アメリカ東海岸の、穏やかな陽光のもとに繰り広げられる愉快な旅は、次第に哀切を帯びてくる。
ヘレン・ミレンとドナルド・サザーランドの名優二人の演技は心にしみて、あとに深い余韻を残すことになる。
パオロ・ヴィルズィ監督のイタリア映画「ロング,ロングバケーション」は、映画として上手いつくりだが、深刻さを笑いの中に閉じ込めて、夫婦の心の深い部分をそっとなぞるような佳品として心に残るに違いない。
どんなに仲の良い夫婦でも、いつかはめぐりくるかもしれないこういう話は、辛い話である。
[JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点)