中国王朝最大の謎に挑む映像叙事詩である。
夢枕獏の「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」を、カンヌ国際映画祭などで常連の中国のチェン・カイコー監督が映画化した。
チェン・カイコーというと、「さらばわが愛 覇王別姫」(1993年)、「始皇帝暗殺」(1998年)などで知られるが、この作品は歴史をさかのぼる1200年以上も前の、絢爛豪華な映像と謎解きに驚愕の真実をさぐる冒険奇譚だ。
1200年以上前の中国長安・・・。
この国際都市で怪事件が起こる。
都の役人や権力者が、次々と不可解な死を遂げる。
遣唐使として居合わせた空海(染谷将太)は、詩人白楽天(ホアン・シュアン)ととものその謎を追う。
彼らの行く先々には、いつも黒猫が現われ、この妖猫に導かれるように、長安を走り回るうちに楊貴妃(チャン・ロンロン)の死にたどり着く。
玄宗皇帝(チャン・ルーイー)に愛された美女楊貴妃は、半世紀前に非業の死を遂げていた。
空海と白楽天は、当時唐にいた阿倍仲麻呂(阿部寛)が、一部始終を目撃していたことを突き止める。
楊貴妃の死の裏に何があったのか。
そして、ときどき姿を見せる不思議な力を持った妖猫の正体は何か。
・・・絢爛たる長安の街で、やがて二人は驚愕の事実を知ることとなる・・・。
これは、日中合作の伝記ファンタジー以外の何ものでもない。
悪く言えば、通俗的な娯楽作品だが、これだけ大仕掛けなセットを組める監督も大したものだ。
原作は「妖猫伝」だそうだが、世界的巨匠はただ単に不思議な猫の物語を描きたかったのか。
美術や映像は煌びやかで見事なものである。
しかし、ここまで豪華なセットを見せられると、何か飽きを感じて途中で間延びがして食傷気味ともなる。
空海がどんな修行や体験を積むものかと期待した。
タイトルのわりにはパッとした活躍の場面はない。
全編を通してみると、まるで怪しい猫が主人公みたいだ。
製作費150億円という大作で、長安のセットは東京ドームの8個分だそうだ。
映像と謎解きは興味津々で、日本語の吹き替えのキャストも豪華だ。
だが、これで日本公開版はすべて吹き替え版なのか。
中国語版で観られないのはいかにもにも残念だ。
タイトルの「空海―KU-KAI」も弱い。
CGを駆使して壮大な夢を描いているが、やたらと頼りすぎている。
そんじょそこらでちょこっと撮れるようなお話の映画ではない。
だから、国境を越えた日中合作映画、チェン・カイコー監督の「空海―KU-KAI―美しき王妃の謎」にはかなりがっかりした。
広大なオープンセット、最大1000人のエキストラ、「長恨歌」の話と圧倒的な映像もともかく、知的な好奇心も大いにくすぐられるのだが、歴史ドラマとしてもファンタジックなミステリーとしても作品としては消化不良だ。
CGを多用したファンタジーというのも相性がよろしくないようで・・・。
[JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点)
次回はフランス映画「女の一生」を取り上げます。
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原作タイトルは「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」だそうですから、これは邦題タイトルをつけた人が「やっちゃった」のかなと・・・。
やっぱりなあという気がします。はい。
まあ、この作品、大作だけに観客の入りは上々のよう(?)ですが・・・。