徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「長江 愛の詩(うた)」―現実と幻想の垣根を超えて大河の流れが象徴的に物語るのは―

2018-03-01 17:16:48 | 映画


 悠久の長江を語る、壮大な叙事詩だ。
 世界最大の三峡ダムが完成するなど、中国社会は大きく変貌を遂げつつある。
 ヤン・チャオ監督が、長編一作目の「Passages」(2004年)に続いて、10年の製作期間を費やして完成させた長編第二作だ。

 比類のない映像世界が圧巻だが、長江は壮大で幻想的な叙事詩のように描かれている。
 この映画は見方にもよるだろうが、現実と虚構、現在と過去が交錯する、なかなかの深遠なラブストーリーでもあるようだ。
 ベルリン国際映画祭では銀熊賞受賞した。




ガオ・チュン(チン・ハオ)は、他界した父親の跡を継いで、老朽化した貨物船の船長になった文学青年だ。
富豪の顧客から、怪しげな積み荷を運ぶ仕事を請け負って、長江をさかのぼる旅に出た。
彼は機関室で、「長江図」と題された手書きの詩集を発見する。
それには、ガオの父親が1989年に創作した幾つもの詩が書かれていた。
ガオはその詩に誘われるように、上海から長江を上流へと向かったが、彼の行く先の港でミステリアスな女性アン・ルー(シン・ジーレイ)と出会う。

二人は出会いと別れを繰り返し、恋に落ちる。
出会うのは、詩に出てくる港ばかりである。
しかし、三峡ダムを境に彼女は港に現れない・・・。

この作品の撮影監督は、「黒衣の刺客」(2015年)などで知られるアジアを代表するリー・ピンビンで、詩的な映像の数々は見応え十分だ。
三峡ダムの完成で、逆に失われた生活や風景に想いをはせ、変わりゆく長江を象徴させる女性として、この女性を登場させていたのだろうか。
2009年に完成したダムは経済発展に大きく貢献したが、上流では水位上昇などで140万人が家や土地を失った代償も大きかった。
美しい景観さえもダム湖に沈み、水質汚染は進んだ。
本編は、中国の今を象徴するかのような映画である。
ファンタジックな山水画の世界に、そうなのだ、現実が溶け込みかけているような・・・。

映画の中に登場するアン・ルーという女性は何者か。
「長江図」とは何か。
はっきりした答えは映画の中にはない。
全ての謎をそのままに受け止めて、想いをめぐらす(?)旅でしかない。
見方によっては、いやまさにこれは一篇の愛の物語か。
何もかもが混沌としていて、理由めいた解釈を求められない。
迫力のある映像詩が続くが、登場人物たちの立場や行動はあいまいで、何を考え、どんな問題を抱えているか。
作者は何を一番言いたいのか。
ヤン・チャオ監督中国映画「長江 愛の詩(うた)」は、山や谷や川が何かを雄弁に語りかけてくるのだ。
現実と幻影が交錯する神秘的な映像詩である。
         [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点
次回は日中合作映画「空海―KU-KAI―」を取り上げます。


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2 コメント

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中国が (茶柱)
2018-02-22 00:32:02
乱開発したことを後悔するときが来たりしないと良いのですけれどもね。
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後悔している・・・ (Julien)
2018-03-01 17:13:23
中国人もかなりいるという話です。
そうでしょうね。反対だった人もかなりいたんです。
ええ。
どこでもダムの問題はいろいろと禍根を残すものです。
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