悠久の長江を語る、壮大な叙事詩だ。
世界最大の三峡ダムが完成するなど、中国社会は大きく変貌を遂げつつある。
ヤン・チャオ監督が、長編一作目の「Passages」(2004年)に続いて、10年の製作期間を費やして完成させた長編第二作だ。
比類のない映像世界が圧巻だが、長江は壮大で幻想的な叙事詩のように描かれている。
この映画は見方にもよるだろうが、現実と虚構、現在と過去が交錯する、なかなかの深遠なラブストーリーでもあるようだ。
ベルリン国際映画祭では銀熊賞を受賞した。
ガオ・チュン(チン・ハオ)は、他界した父親の跡を継いで、老朽化した貨物船の船長になった文学青年だ。
富豪の顧客から、怪しげな積み荷を運ぶ仕事を請け負って、長江をさかのぼる旅に出た。
彼は機関室で、「長江図」と題された手書きの詩集を発見する。
それには、ガオの父親が1989年に創作した幾つもの詩が書かれていた。
ガオはその詩に誘われるように、上海から長江を上流へと向かったが、彼の行く先の港でミステリアスな女性アン・ルー(シン・ジーレイ)と出会う。
二人は出会いと別れを繰り返し、恋に落ちる。
出会うのは、詩に出てくる港ばかりである。
しかし、三峡ダムを境に彼女は港に現れない・・・。
この作品の撮影監督は、「黒衣の刺客」(2015年)などで知られるアジアを代表するリー・ピンビンで、詩的な映像の数々は見応え十分だ。
三峡ダムの完成で、逆に失われた生活や風景に想いをはせ、変わりゆく長江を象徴させる女性として、この女性を登場させていたのだろうか。
2009年に完成したダムは経済発展に大きく貢献したが、上流では水位上昇などで140万人が家や土地を失った代償も大きかった。
美しい景観さえもダム湖に沈み、水質汚染は進んだ。
本編は、中国の今を象徴するかのような映画である。
ファンタジックな山水画の世界に、そうなのだ、現実が溶け込みかけているような・・・。
映画の中に登場するアン・ルーという女性は何者か。
「長江図」とは何か。
はっきりした答えは映画の中にはない。
全ての謎をそのままに受け止めて、想いをめぐらす(?)旅でしかない。
見方によっては、いやまさにこれは一篇の愛の物語か。
何もかもが混沌としていて、理由めいた解釈を求められない。
迫力のある映像詩が続くが、登場人物たちの立場や行動はあいまいで、何を考え、どんな問題を抱えているか。
作者は何を一番言いたいのか。
ヤン・チャオ監督の中国映画「長江 愛の詩(うた)」は、山や谷や川が何かを雄弁に語りかけてくるのだ。
現実と幻影が交錯する神秘的な映像詩である。
[JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点)
次回は日中合作映画「空海―KU-KAI―」を取り上げます。
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そうでしょうね。反対だった人もかなりいたんです。
ええ。
どこでもダムの問題はいろいろと禍根を残すものです。