徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「あなた、その川を渡らないで」―76年間連れ添った夫婦の純愛物語―

2016-08-08 17:00:00 | 映画


 韓国の小さな村で暮らす、結婚76年目の夫婦の日常を丹念に撮り続けた、ドキュメンタリーだ。
チ ン・モヨン監督は、老夫婦の日々に15ヶ月密着して撮影した。
 慎ましくも、いたわり、慈しみ合う夫婦の歳月が素晴らしい。

 韓国の劇場では、ひっそりと公開されたこの作品が、数ヶ月後口コミで広がり、公開劇場は800館を数え、ハリウッドの大作を抑えて大ヒットしたそうだ。
 韓国国内では、10人に1人が観たこととなるが、480万人という驚くべき観客を動員し、若者からお年寄りまでを巻き込む社会現象にまでなった。
 何と、その勢いは国内にとどまらず、世界中の映画祭でも上映され、多くの観客賞に輝き、日本でも公開されるや、上映館は連日補助椅子が用意される混雑となった。
これを人気映画というのですか。






川のほとりの美しい村・・・。
98歳のおじいさん(チョン・ビョンマン)と89歳のおばあさん(カン・ゲヨル)は、仲睦まじく暮らしていた。
妻が14歳の時に結婚して、76年がたった。
夫は、毎日、妻の顔を優しくなでて寝る。
二人はいつもお揃いの民族衣装を着て、手をつないで散歩したり、庭掃除をしながらふざけ合う。
春には花を折って互いに飾り、秋には落ち葉を投げ合ってはしゃぎ、冬は真っ白な庭で雪合戦に興じる。
その姿はまるで、仲の良い子供のようだ。

2人は12人の子供を授かったが、6人を幼くして亡くし、昔も今もラブラブ夫婦に違いはないのだが、日本の植民地時代や朝鮮戦争などの厳しい体験もしている。
ある日、市場へ子供の寝巻を買いに出かける。
貧しくて買ってあげられなかった天国の子供たちに、先に死んだ方が届ける約束なのだ。
そんな愛に包まれた穏やかな日々が続くが、おじいさんの死が迫ってくる。
おばあさんは、「私がすぐ逝かなかったら、迎えに来てよ」と言って、おじいさんの手を強く握るのだった・・・。

仲睦まじく暮らす老夫婦の話は、身に染みる。
カメラは近くもなく遠くもなく、ほどよい距離で二人を温かく見守っている。
76年をともに過ごした夫婦の心情が、細やかに映し出されて、見事な調和を見せる。
夫婦の静的なカットは、全編愛に溢れている。
画面は常に固定されていて、観客は自然と物語に没入することができる。

最後は、おじいさんの体調が悪くなって、結局亡くなるまでをカメラは追っている。
おじいさんが亡くなって、雪降る中、天国の夫におばあさんが語りかける場面は感動的である。
チン・モヨン監督ドキュメンタリー「あなた、その川を渡らないで」は、愛を主題にした胸に沁みてくる映画だ。
鑑賞には、とくに女性はハンカチとティッシュは忘れずに用意した方がよろしいようで・・・。
愛情の溢れた、丁寧に綴られる老夫婦の毎日の暮らしの記録が、ここに生きている。
全てが自然体でよく撮れていて、これがドキュメンタリーとは、とても信じられないほどだ。
     [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点
次回は韓国映画「ヒマラヤ~地上8,000メートルの絆~」を取り上げます。