徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「真夜中のゆりかご」―男が善か悪かの選択を迫られるとき―

2015-06-28 07:00:00 | 映画


 差別から生じる憎悪の連鎖を子供の目で描いた「未来を生きる君たちへ」(2010年)で、アカデミー賞外国語映画賞受賞した、デンマークスサンネ・ビア監督が描くめずらしい北欧のサスペンスだ。

 静かな家庭劇の味わいの中に、複雑で切迫した感情のうねりがあり、社会と人間の暗黒面を濃縮した感じの重いテーマが描かれる。














湖畔の瀟洒な家に住む、幸せそうな刑事アンドレアス(ニコライ・コスター=ワルドー)夫妻と、ドラッグズづけですぐ女を殴りつける元犯罪者トリスタン(ニコライ・リー・コス)のカップルに起きた話だ。

二組の夫婦には、同じ年代の男の赤ちゃんがいるが、ある夜刑事の赤ちゃんが突然死してしてしまう。
事実を受け入れられないアンドレアスは、何を思ったか、自分の赤ん坊とトリスタンの赤ん坊とをすり替え、何食わぬ顔で元犯罪者のトリスタンを追求する。
トリスタンの妻サネ(リッケ・メイ・アンデルセン)は取り替えられた子を見て、「この子は私の子供じゃない」と叫び、その狂乱ぶりは尋常ではなかった。
アンドレアスの妻アナ(マリア・ボネヴィー)は、精神的な苦しみのあまり、赤ちゃんを残して投身自殺を遂げる・・・。
悲劇はこうして起きた・・・。

突然の不幸に見舞われて、ここでアンドレアスの選択した行動は、果して正しかったのか。

母親二人の心理は細やかに描かれ、緊迫感がある。
登場するのは二組のカップルだが、ドラマの展開につれて、アンドレアス刑事の心がだんだん壊れていくところが興味深い。
実際にこのようなことが起こりえるかは疑問だ。
善と悪の境界で、論理的な決断をしたはずの刑事が、精神的に追い詰められていく過程が、綿密によく描かれている。
心情的に理解できても、法的には許されない行為に走る刑事の運命を通して、倫理的な疑問が生じる。
このサスペンスには強烈なひねりが効いており、スクリーンから全く目が離せないほど、ぐいぐい引き込まれる。

映画は冒頭から、主人公夫婦と薬物依存の夫婦という二組のカップルを軸に、経済格差が引き起こす育児放棄が、家庭内暴力などの社会問題を絡めて対比的に描かれる。
子供のすり替えは、物語としては単純である。
アナが悲劇を迎え、息子の真相を知った主人公の苦しみは、映画であることを忘れるほど胸を打つ。
それを心の苦痛というのだろうか。
ドラマは、最後まで観る者をぐいぐい引っ張っていく。
観ているのが辛いくらいのリアリティ感じさせる作品で、かなり見応えはある。
スサンネ・ビア監督デンマーク映画「真夜中のゆりかご」は、幼い子供の死と向き合う家族のドラマだ。
人間の業に踏み込んで、どちらかというとありふれた筋書きではあるが・・・。
善と悪との境界線に立ったときの、人間の強さと弱さを描いて、この作品における表現の豊かな演出力は、さすがスサンネ・ビア監督だ。
     [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点