徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「やさしい女」―さまよう女の心の遍歴の果てに―

2015-06-21 07:00:01 | 映画


 ロシアの文豪ドストエフスキーの傑作長編を、ロベール・ブレッソン監督が映画化した。
 1986年日本初公開以来ソフト化されていない映画が、デジタル・リマスター版でよみがえった。

 人を愛するとはどういうことか。
 一組の夫婦に起きた悲劇は、愛し合うことの美しさを問いかけてくる。
 「白夜」に先駆けて作られた、ブレッソン監督の初カラー作品で、物語の舞台をロシアから原題(60年代後半)のパリへと移し、大胆な翻案を施している。
 作品は極端なまでに台詞を配しており、二人の男女の視線のドラマともいえる作りが印象的だ。










パリで質屋を営む男(ギイ・フランジャン)は、客の持ってくる品を鑑定して値をつけ金を融通する。

ある日、若い女(ドミニク・サンダ)が訪れ、古いカメラを男の前に差し出した。
素晴しいカメラだと男が言うと、それを引き取って帰ってしまった。
次に来たときは、全く価値のないパイプだった。
それを、男は高い値で引き取った。
三度目に来たとき、彼女が初めて口を開いた。

冬の動物園で、男は女に求婚した。
人を愛するのは不可能だと訴える彼女に、世の中の女性はみんな結婚を考えていると言って、彼女に承諾させた。
結婚式を挙げ、彼女は彼の言うことに従い、つつましやかな二人の生活が始まった。
二人は映画を観たり、読書をしたり、レコードを聴いたり、晴れた日曜日には野原に野菊を摘みに行ったりする、平穏な日々が続いた。
ところがある日、男が常連客の老婦人のカメオにとんでもない高値をつけたことから、二人の間に亀裂が生じた。
そして、また別の常連客の男と彼女が親しげにしている様子を見て、夫は激しい嫉妬を感じた悩んだ。
彼女に外出の理由を聞き、持っていた白いバラを誰からもらったのかと責めた。

ある夜明け近く、彼女は夫にピストルを向けた。
彼は眠ったふりをしている。
その直後、彼女は病に陥り6週間寝込んだ。
冬が来て、彼女は回復する。
彼は、彼女に別の場所で再出発したいと、穏やかに語った。
そして朝、彼女は晴れやかな笑みを浮かべて、彼に貞淑な妻になることを約束する。
安心した彼は旅に立った。
見送ったのち、彼女は微笑した。
そして、彼女のとった行動は・・・。

悲劇はそこで起こったのだった。
映画は、冒頭にこの衝撃的な出来事をいきなり持ってきて、一体何が起きたのかと観客を慌てさせる。
ドラマは、それからゆっくりと過去の回想に入っていくのである。
16歳で結婚した彼女の心の軌跡に、どんなことがあったのか。
質素ながらも順調そうに見えた二人の結婚生活は、わずか2年で何故破綻していったのか。
ロベール・ブレッソン監督フランス映画「やさしい女」は、原作のプロットを守りながら、女性の心理の闇を丁寧にに綴った小品で、よくまとまっている。
カメラの位置、角度、そして登場人物の配置、正面、側面、背後、視線の動き、陰影、細やかに計算された演出が、男と女の心の揺らぎを妖しくあぶりだす・・・、そのあたり並の映画ではないとみた。

自らも、15歳で年上の男と結婚するも数か月で離婚するという経歴を持つ、主演のフランス女優ドミニク・サンは、映画初出演ながら、年上の夫を翻弄する女の苦悩を演じて心にくい。
彼女の見せる視線からは、何やら鋭い恐ろしさも感じるとることができ、それは女の心境の変化、変質を物語るものだ。
女優をはるかに超えた(?)女への変貌が、この映画では見ものである。
女の謎めいた死の真相は解らない。
こんな作品があったなんて、まずちょっと貴重な映像だ。
     [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点
次回はフランス映画「カフェ・ド・フロール」を取り上げます。