ベルギーの、ジャン・ピエール・ダルデンヌとリュック・ダルデンヌの兄弟監督による最新作である。
常に社会的弱者の目線で、作品を生み出してきた兄弟監督が、この映画ではオスカー女優のマリオン・コティヤールを起用して、労働者の連帯という社会派のテーマで、希望の物語を綴っている。
1990年代末に、実際にフランスで起きた事件をもとにしている。
雇用の問題をめぐる状況の厳しさは、日本でももちろん、ヨーロッパでも変わりはないようだ。
この映画は、体調不良でしばらく会社を休んでいた女性が、仕事に復帰しようとしたとたんに解雇されるという物語だ。
二人の子供の母親でもあるサンドラ(マリオン・コティヤール)は、ソーラー工場で働き、レストランで働く夫のマニュ(ファブリツィオ・ロンジォーネ)と共働きで生計を立てている。
このところ体調をこわして休職していたが、ようやく職場に復帰しようとしていた。
ところがその矢先に、会社から電話がかかってきて、解雇を言い渡される。
回顧に同意すれば、千ユーロのボーナスを支払うということを会社は約束したが、会社の同僚たちはサンドラの解雇に賛成した。
従業員の投票で、回顧の是非が決まる工場なのだ。
同僚たちは最初ボーナスを選ぶが、同僚の一人のとりなしで、サンドラをとるかボーナスをとるか、週明けに16人の同僚の再投票で決めることになった。
月曜日の投票に向け、サンドラは家族に支えられながら、週末の二日間同僚たちを説得に回る。
どんなことを言えば、人の心を動かすことができるか。
人生と善意は、天秤にかけられるのか。
サンドラは、仕事を続けることができるのか。
ちょっとしたサスペンスにも満ちた展開に、感情移入も抵抗はなく、この先どうなるのかと心配になってくる。
投票の瞬間を見るまでが緊張する。
プライドを捨ててまで懇願できるかどうか。
選択を迫られながら、どちらを選ぶか。
サンドラの懸命な説得工作が行われる。
ベルギー・フランス・イタリア合作映画「サンドラの週末」は、ヨーロッパの経済危機、ちょっと大げさかもしれないが、ひいては世界の危機を反映する作品だ。
同僚の合意にもとずいて、一人が解雇された事例はフランスで実際にあった。
この映画での同僚の反応は様々だ。
サンドラに同情し、解雇通告に憤慨する者、ボーナスを手にしないと子供の学費やローンが支払えないと拒む者、家族と意見が対立する者、会社から脅かされる者・・・。
そうした者たちをひとりひとり説得に歩く姿は痛ましいが、相手にも事情があり、サンドラとて無理強いはできない。
彼らの生活を誰も非難できない。
この同僚たちの反応のなかに、今日の社会の証言がある。
どこまで、他人は自分の身になって考えてくれるか。
それが連帯だ。
世の中はそんなに甘くない。
サンドラの揺れる心を、今回はあまり化粧気のない普通の主婦に扮したマリアン・コティヤールが繊細な演技で見せてくれている。
ラストまで観終わった時、サンドラに人間の尊厳の片鱗を見る気がした。
前作「少年と自転車」では、カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した、ジャン・ピエール・ダルネンヌとリュック・ダルデンヌの兄弟監督が、日常の出来事から普遍的な社会派ドラマを紡いだ、優れた作品ではないだろうか。
[JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点)