カンヌ国際映画祭では、コンペティション部門に出品されて惜しくも受賞を逸したが、世界中の映画ファンから注目を浴びた。
世代を超えて愛読されている吉田秋生の同名漫画を、「そして父になる」の是枝裕和監督が実写映画化した。
鎌倉の四季の移ろいの中で暮らす四人姉妹が、悩み喜び、時には傷つけあいながらも本当の家族になるまでの一年間の物語である。
そ してそれは、ほのぼのとしたヒューマンドラマに見えて、実は親に捨てられた子供たちが新たに家族を再建するという重い主題を背負っていて、是枝監督は温かな情感をもって、優しい目線でこの作品を仕上げた。
「 小早川家の秋」をはじめとする、名匠小津安二郎の作品を思わせる様式美とともに、丁寧な作りの映画として好感が持てる。
眩しい光に包まれた夏の朝、香田家の三姉妹に父の訃報が届いた。
香田家の長女・幸(綾瀬はるか)はしっかり者の看護師で、両親へのわだかまりを捨てきれない。
そんな姉と何かといえばぶつかる次女・佳乃(長澤まさみ)は、開けっぴろげな性格だ。
三女・千佳(夏帆)は何事もマイペースで、少し変わり者だ。
三人三様の姉妹は、三人だけで鎌倉の古い一軒家で暮らしている。
父は15年前に女と家を出ていき、その後母も再婚して家を去った。
三姉妹を育てた祖母も亡くなり、広くて古い鎌倉の家に彼女たちだけが残された。
三姉妹は父の葬儀で、中学生の腹違いの妹・すず(広瀬すず)と出会う。
すずは頼るべき母もすでになく、それでも気丈に振る舞っている。
そんな彼女の健気さに打たれた幸は、一緒に鎌倉の家で暮らそうと誘った。
すずは喜んで提案を受け入れ、秋風とともにやって来ると、あらためて四姉妹の生活が始まった。
すずは入団したサッカークラブで新しい友達もでき、姉妹たちの仕事の環境や、彼女たちを取り巻く男女(風吹ジュン、リリー・フランキー)の喜びや哀しみ、そして祖母の七回忌の突然現れた母親(大竹しのぶ)と幸との口論などのエピソードを交えながら、ドラマは展開する。
四人の生活には、それぞれ複雑な思いもある。
でも、一年間の暮らしの中で、事件らしい事件は何も起こらない。
起きているとすれば、それは映画の始まる前の時間だ。
過去の回想シーンもなく、姉妹たちの会話から過去の出来事を類推するだけである。
父親が出て行って、さらに母親も去っていったこと・・・、親に去られ、あるいは先立たれた女性合せて四人の群像ドラマだ。
過去のことはこのドラマでは描かれない。
美しい四季の移り変わりの中で、暮らしは古風でも、画面の作りは精妙に計算され、故小津安二郎監督を思わせる。
和室のちゃぶ台で姉妹が囲む朝食の場面も、日本人の生活の雰囲気がよく出ていて悪くないし、このシーンでの姉妹のやり取りも自然でいい。
是枝裕和監督の作品「海街 diary」は、しかし取り立てて斬新さを感じさせるものはなく、日本映画あるいは小津安二郎へのオマージュのようにも見られる作品だ。
この作品がカンヌで受賞を逸したのも、観客の受けとは違って、あちらの審査員はとくに斬新にして秀でた才能を求めているから、この作品では難しかったと思う。
父の葬儀で腹違いの姉と初めて会ったすずを演じる広瀬すずが、16歳とは思えず真直ぐな演技で印象的だ。
彼女はこの映画の撮影の際、台本はもらわず、現場で口伝えでセリフをもらうやり方で臨んだというから、大したものだ。
監督からOKが出るまで何度もやり直したという。
是枝監督は、撮影の合間に話している彼女たちの会話を聞いて、それをセリフにして追加したり、その場その場の空気を大事にして映画を作っていったそうだ。
人は自分をどうすれば肯定できるのか。
心のわだかまりをどう解決していくのか。
海辺の街の四季を綴りながら、家族のありようを問いかける温かな作品で、そのみずみずしい映像とともに、甘い味、しょっぱい味、ときに苦い味も、さじ加減の程よく調和した佳作である。
[JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点)