徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「エレファント・ソング」―精神病棟で巻き起こる緊張感あふれる心理戦―

2015-06-12 13:00:00 | 映画


 カナダ
の若き俊英グザヴィエ・ドランは、監督だけにとどまらない。
 俳優としても評価の高い彼が、「この作品の主役は自分に」といって出演を熱望した映画だ。
 この作品は、前作「トム・アット・ザ・ファーム」と同様に、戯曲を原作とする心理劇だ。
 シャルル・ビナメ監督が映画化した。

 周囲の人々を翻弄しつつも、痛々しいほど愛を渇望する青年をグザヴィエ・ドランが熱演し、名優ブルース・グリーンウッドをはじめ、キャサリン・キーナーキャリー=アン・モスコルム・フィオールといった名だたる名優たちを迎え、サスペンス溢れる会話劇を展開する。
 俳優たちの競演が見ものだ。









マイケル(グザヴィエ・ドラン)は美しい青年だった。

14歳のときに、オペラ歌手の母が目の前で自殺し、その後現在にいたるまで精神病院に入院している。
彼は病院で一番の問題児で、ゾウにまつわるあらゆることに異常なまでの執着を示していた。
病院の精神科医ローレンス(コルム・フィオール)が、ある日診察室から姿を消した。
ローレンスを最後に見たのは、マイケルだった。

マイケルのことをよく知る看護師長のピーターソン(キャサリン・キーナー)は、マイケルが真実を話そうとしないとグリーン院長(ブルース・グリーンウッド)に助言する。
グリーンは、マイケルに直接事情を聴くことを試みる。
すると、マイケルは話をする代わりに、自分のカルテを読まないこと、チョコレートを褒美としてくれること、看護師長をこの件から外すことを要求した。

グリーン院長とピーターソン、この元夫婦の二人には、いまなお脳裏から離れぬ、ある悲劇的な過去があった。
ピーターソンが娘を湖に連れて行った際に、事故で娘を失ったのだ。
ピーターソンを心の底では責めずにいられなかったグリーンは離婚し、後ろめたさを抱えながら生きていた。
・・・マイケルの条件を飲んだグリーンは、マイケルがゾウやオペラの話など無駄話ばかりして肝心の話を逸らすのに嫌気がさしていた。
ときには嘘か本当か訳の分からぬことばかり口走り、誠実な(?)グリーンはいつしかマイケルの巧妙な罠に取り込まれていくのだった。
そして、悲劇が起きた・・・。

室内で展開する、医師と患者の迫力ある心理劇だ。
この映画、「サイコ・サスペンス」とも評され、マイケルが見せる心の闇の背後に、もうひとり愛を渇望する孤独な青年の姿がある。
アフリカツアーの最中に、ハンターの男との一夜のアバンチュールでマイケルを身ごもった母であったが、オペラ歌手である母にとってマイケルは「望まれない子供」だった。
マイケルは、「母の胎内にいた時だけ、母と親密だった」と告白するのだ。

この映画は、1960年代中ごろを背景に描かれている。
子供への小さな虐待や、育児放棄、シングルマザー、両親の離婚による子供への影響など、青少年を取り巻く環境はますます悪化している。
子供から脱皮しても、なお切なく愛を切望してやまないマイケルは多感な青年で、彼の悲痛な叫びはあまりにも孤独である。
そこに、このドラマが潜在的に提起するテーマがあるように思われる。

シャルル・ビナメ監督カナダ映画「エレファント・ソング」は、まことに痛ましい作品だ。
どこまでものらりくらりと院長を翻弄し続ける、マイケルの異様さには辟易する。
それと、主人公マイケルのこれまでの成長の過程や背景を、もっと掘り下げて描いて見せてほしかったが・・・。
      [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点