徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「推理作家ポー 最期の5日間」―虚実を散りばめたサスペンスフルで独創性豊かな物語―

2012-10-20 20:30:00 | 映画


 エドガー・アラン・ポーは、史上初の推理作家、また天才小説家とも呼ばれる。
 この作品は、謎に満ちた彼の怪死と、彼に魅せられた小説模倣犯との、手に汗握る対決が主軸となっている。
 偉大なる作家ポーの、伝説的な要素も多々取り入れて、いまなお謎に包まれている、死の直前の5 日間を描く。

 ジェームズ・マクティーグ監督の、アメリカ映画である。
 映画はフィクションでありながら、多くの場面で実際のポーの姿を再現している。
 一般の娯楽作品としての面白さも勿論だが、より深く覗き見ると、それ以上のミステリアスな作品として成功している。
 登場人物の心の葛藤を描いていて、ドラマは、例えばポー自身の作品である「モルグ街の殺人」をはじめ、幾つかの作品に酷似していることに気づく。
 犯人探しのミステリーとして、史実とフィクションを絶妙にコラボレートさせるあたり、構成の妙である。
 登場人物の心の葛藤を描いて、脚本(ハンナ・シェイクスピア、ベン・リヴィングストン)が素晴らしく、それ自体が作品のようなのだ。
 しかも、文芸的要素までも持っていて、ドラマは、たとえばポー自身の作品である「モルグ街の殺人」をはじめ、幾つかの作品に酷似していることに気づく。
 しかし、なかなかよくできた作品だ。
      
1849年、メリーランド州の港町ボルチモア・・・。
闇夜を切り裂く悲鳴とともに、凄惨な殺人事件が発生した。
現場のアパートに急行した警官たちが目にしたのは、密室で殺害された母娘の死体だった。
母親は首を切断され、娘は絞殺されて、暖炉の煙突の中に逆さ吊りにされていた。
事件を捜査したフィールズ刑事(ルーク・エヴァンス)は、事件のあった部屋で、ポーのある小説の内容とトリックと殺害方法がよく似ていることに気づいた。
それは、ポーの推理小説「モルグ街の殺人」だった。

その頃、ポー(ジョン・キューザック)は、なじみの酒場で騒ぎを起こし、店から放り出されていた。
そのまま朝を迎えポーは、恋人エミリー(アリス・イヴ)の馬車を見つけ、飛び乗るが、同乗していた彼女の父ハミルトン(ブレダン・グリーソン)に追い出されてしまう。
・・・やがて、エミリーが誘拐されるという事件が起き、犯人からポーへの挑戦状が届く。
全ての殺人現場が、エミリー救出の手がかりだというのだ。

エミリーを取り戻すため、ポーと犯人との壮絶な頭脳戦が火ぶたを切る。
ポーは、作家としての才能の限りをつくすが、命まで投げ出さなければ勝てそうにない・・・?
ポーの小説を真似るように事件を超す確信犯と、ポーの危険極まりないゲームの行方から目が離せない。

刑事フィールズ役のルーク・エヴァンスは、ひとつの謎から次の謎へと疾走し、この連続殺人事件のノンストップ・ミステリーは、ちょっとばかり観る方に知的興奮をもたらし、この種の映画を大いに贅沢な娯楽作品にしている。
全ての答えは、ポーの作品の中にありと言いたげに・・・。

1849年10月7日に、ミステリー作家エドガー・アラン・ポーは、謎めいた不可解な言葉を残してこの世を去っている。
ジェームズ・マクティーグ監督アメリカ映画推理作家ポー 最期の5日間」は、物語中盤までは次々と起きる事件とともに、ポー自身のキャラクターや彼の背景が明らかになっていくのだが、やがて緊迫感のあるラストへと一気に引き込まれていく。
そのあたりが最大の見どころだ。
ただ、ポーの作品の模倣犯というだけで、これだけの連続殺人事件の、犯行の動機がよくわからない。

主演のジョン・キューザックは作家の気難しさと、天才肌の頭脳の持ち主であるポー自身に、かなり近いのではないかとさえ思われる。
40歳の若さで早逝した、偉大な作家の作品に触れる思いで、久しぶりに、大人向けのA級サスペンス映画を楽しめた感じがする。
調べてみたら、ポー原作劇映画の日本公開作品が、何と38作もあるのだ。大したものである。
それほどに、興趣の尽きない、心理スリラーやホラー、アクションなど多彩な要素の詰まった作品が多いということだろうか。
     [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点