徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「運命のボタン」―謎と妄想の渦巻く恐怖!―

2010-05-11 06:00:00 | 映画

風薫る五月に、これはまた少々(?)怖ろしいドラマである。
若き鬼才といわれる、リチャード・ケリー監督アメリカ映画だ。
ボタンを押せば100万ドルの大金が入るが、その代わりに見知らぬ誰かが死ぬという、究極の選択を迫られる夫婦の運命が描かれる。

主人公を演じるキャメロン・ディアスが、初めて本格サスペンスに挑戦する。
運命に翻弄される、静かなる演技にぐいぐいひきつけられる。
物語は、SF作家のリチャード・マンスマンの短編を下地に、巧みな設定を施し、最後まで目が離せない、奇想サスペンスである。
SF的な味付けがかなり濃厚なだけに、現実離れした魔術の世界をのぞくような、誇大妄想的解釈も必要か。

映画「運命のボタン」(原題「THE BOX」)は、謎の人物が玄関先に置いた箱のボタンを押すかどうか、決断を迫られるところから始まる。
1976年冬のある早朝、ヴァージニア州郊外に暮らす、ルイス夫妻の玄関のベルが鳴った。
妻のノーマ(キャメロン・ディアス)はベッドから起き、階段を降りてドアを開けたが、誰もいない。
その時、一台の車が走り去っていくのが見えた。

見ると、玄関のアプローチに真四角な箱がポツンと置いてある。
朝食の支度をするノーマの横で、夫のアーサー(ジェームズ・マースデン)が箱を開けた。
中には、木製の装置のようなものが入っていて、赤いボタンがついている。
そのボタンを、半球の透明なガラスが覆っていて、鍵がかかっていた。
手紙が添えられていて、「スチュアード氏が午後5時に伺います」と書かれていた。
ルイス夫妻の知らない人物であった。

その日の夕方、スチュアード(フランク・ランジェラ)と名乗る、謎の人物がノーマを訪ねて来た。
彼の物腰は紳士的だったが、顔の半分が火傷のあとのように焼け爛れていた。
そして、夫妻に驚くべき提案を持ちかけた。
 「このボタンを押せば、あなたは100万ドル(約1億円)を受け取る。ただし、この世界のどこかであなたの知らない誰かが
 死ぬ。提案を受けるかどうか、期限は24時間です。どうしますか?」
ノーマとアーサーの二人は迷うが、目前に一億円を見せられ、生活が苦しいこともあり、結局ボタンを押してしまうのだ。
だが、それは想像をはるかに超えた、怖ろしい事態の始まりに過ぎなかった・・・。

映画だから、ボタンを押さなければドラマは始まらない。
そのボタンを押してしまったから、さあ大変だ。
次から次へと、信じられない出来事が襲いかかってくる。
ある時は水に閉じ込められ、ある時は見ず知らずの者たちに追いかけられる。
謎の人物スチュワードは、一体何者なのか。

幸せになりたかったための「選択」が、とんでもない恐怖の世界へ、夫婦を引きずりこんでいく。
生活に疲れた主婦を演じるキャメロン・ディアスもめずらしく、ダメ男みたいな夫を演じるジェームズ・マースデンもともによくやっていて、人間の欲望の果てに待つ、得体の知れぬ怖さにはらはらさせられる。
アメリカ映画「「運命のボタン」は、謎と妄想が渦巻き、恐怖と哀しみに彩られた作品だ。
あり得ない話が壮絶なドラマとなって描かれ、人間のちょっとした欲望のツケは、怖ろしいまでの悲劇を呼ぶことになる。

何故、どうしてといった科学的論拠や因果関係、常識といったものは、ここでは一切通用しない。
映画を芸術と観るか、これはかなり刺激的な思考実験だ。
映画でなくては出来ない大冒険を、常識を超えた奇想なスケールで描いている。
リチャード・ケリー監督の正気をも疑いたくなるような、複雑怪奇で、どうにも脳内整理の追いつかない異色作だ。
究極の選択で、ドラマが悲劇的な終焉を迎える構成にも息を呑む。
不条理きわまりない、ミステリー作品である。