フランスの現代作家として名高い、フィリップ・クローデルが、自分で脚色から監督まで試みた作品だ。
フランス・ドイツ合作の映画で、作品としては極めてシンプル、極めてピュアなものだ。
人間の心の深淵にのぞみ、誰しもがかかえる孤独を浮き彫りにする。
過去に犯した過ち・・・、その罪と罰、そして許しを描く。
緊張感あふれる、ドラマの上質さをうかがわせる。
ひとりの女性が、人気のない空港で煙草を吸っているシーンからこの物語は始まる。
ジュリエット(クリスティン・スコット・トーマス)は、15年の刑期を終えて出所してきたばかりだ。
彼女は、年の離れた妹レア(エルザ・ジルベルスタイン)の一家のもとに、身を寄せる。
長い空白の期間を経て再会した姉妹は、はじめはぎごちなく、ジュリエットはレアの夫や娘たちとも距離をおく。
しかし、献身的な妹、無邪気な姪、新しく出会ったよき理解者と触れあい、少しずつ自分の居場所を見出し始める。
そんなある日、ジュリエットに、幼い頃に別れて何も知らないレアに、長年封印していた真実を明かす瞬間が訪れる。
―― 何故、愛する息子を手にかけねばならなかったのか。
刑務所で実際に教鞭をとったjことのあるクローデルが、自分の体験を色濃く反映させたこの作品は、「居場所」を失った者の再生を力強く描いている。
孤独な心の闇の深淵から、再び光の差し出す方へ歩み始めようとする主人公、その主人公にそっと寄り添い、理解し、ありのままの姿を受け入れる。
ドラマのスタートは悲劇的なのだが、この物語の根底にあるのは、愛の美しさやその絆の強さである。
犯した罪は、決して消えることはない。
でも、差し伸べられた手を携え、もう一度本来あるべき自分を取り戻すひとりの女性の姿に、一種崇高なまでの魂を見る。
光溢れる美術館、雨の流れ落ちる窓辺・・・。
生きることに、救いはあるのだろうか。
死んだ息子は帰っては来ない。
罪は消えない。
それでも、人は生きてゆかなければならない。
救いがたさを受け入れて、さらなる新しい生を始めるために――。
そういう心象風景を想わせる、ラストシーンだ。
心の闇をかかえる女性の再生を演じる、ヒロインのクリスティン・スコット・トーマスは、ノーメイクに時代遅れとも見えるファッションで、息子を手がけた母親という難役に果敢に取り組んでいる。
渾身の演技が素晴らしい。
妹レア役のエルザ・ジルベルスタインも、憧れていた姉の、突然の不在に深く傷つきながら歳月を重ねていて、自分の家庭を持ったいま、もう一度姉と向き合うことを決意したレアの心情を、実に細やかに表現している。
英国アカデミー賞ほか、ヨーロッパ各地をはじめとして、多数の映画賞を総なめにした作品だ。
このフランス・ドイツ合作、クローデル監督の映画「ずっとあなたを愛してる」は、作品それ自体が小説のようであり、いや、まさに小説こそが描く世界と思われるのに、クローデルという人は映画を制作してしまった。
痛める心の叫びに、力強い演技と繊細な演出を観て、ふう~っと思わずため息が出た。