徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「戦場のレクイエム」―骨太の人間ドラマ―

2009-01-20 13:30:00 | 映画

中華人民共和国建国前夜、60年前に、一体何が起きたのか。
この映画は、「女帝[エンペラー]」知られる中国の巨匠フォン・シャオガン監督の渾身の一作である。
中国戦争映画史上で最高といわれる、17億円を投じて製作された壮絶なドラマだ。

1948年、新中国建設をめぐって、毛沢東率いる共産党の人民解放軍と、蒋介石率いる国民党軍との間で、激しい戦闘が繰り広げられていた。
それは、抗日戦線に続いた解放戦線期最大の戦役だった。
1937年7月の蘆溝橋事変に始まる日中8年戦争が終わり、1945年8月日本がポツダム宣言を受け入れて無条件降伏して3年後の、中国の内戦である。

人民解放軍の第9連隊長グー・ズーティ(チャン・ハンユー)は、47人の部下とともに最前線にいた。
激戦の中で、ただ一人生き残ったグーは、仲間の多くの死は、自分が撤退命令(集合ラッパ)を聞き逃したためだったとの自責の念にとらわれる。
混乱の中で、47人の遺体は行方不明となり、第9連隊は忘れ去られるが、グーは仲間の名誉を取り戻そうと、長い困難な闘いへと身を投じる・・・。

1949年の中華人民共和国の建国まで、二次に渡り、延べ14年に及んだ国共内戦は、同じ民族同士が血を流し合い、多くの悲劇を生み出した。
これまでは、あまり映画化されることのなかった内戦の実体を、この作品は真正面から描いている。
戦争を美化することなく、ひたすら残酷さを活写し、その中で翻弄された一兵士を通して、戦争の持つ非情さがあますところなく描き出される。

グー・ズーティは信望のあつい指揮官だったが、自分の判断の誤りが、仲間を多く死に追いやったのではないかという罪の意識にとらわれている。
部隊の再編で、第9連隊の全滅は記録から消し去られ、英雄として当然認められるはずの47人の部下たちは、全員が不名誉な失踪者扱いにされてしまっていたのだった。

グーは、悔恨と怒りから、仲間の名誉を取り戻すために、命を捧げようと決意する。
自身も視力を失い、周囲から白眼視されながら、10年の歳月を経て、ついにその目的を果たすことになるのだが、その姿が感動を呼ぶ。

原作は、わずかに3ページほどの史実に基づいた短編小説だそうだ。
フォン・シャオガン監督は、戦死した仲間の遺体を必死で探す主人公の、骨太の人間ドラマを作り上げた。
当然、リアルな戦争描写は不可欠だ。
戦争の場面は、迫力満点で、もう圧巻の一言につきる。

冒頭から、観客は15分に及ぶ激しい戦闘シーンの中にたたきこまれる。
繰り返される死闘の中で、兵士一人一人が命を落としていく壮絶な場面には、凄みすら漂い、戦場のただならぬ恐怖と緊迫感をみなぎらせている。
これは、本当に凄い!

フォン・シャオガン監督の、この最新の一作戦場のレクイエムは、同じ民族同士の戦争という悲劇の中に、一人の兵士の贖罪を描いた作品だが、「歴史」と「犠牲」をテーマにしたかったという、彼の製作意図は十分にうかがえる大作だ。
中国アカデミー賞と言われる、金鶏百花映画祭で、最優秀作品賞と最優秀監督賞など四賞を受賞した。
・・・戦争からは、悲劇しか生まれない・・・。