徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

ーフランス映画「輝ける女たち」鑑賞ー

2007-12-03 14:00:00 | 映画

現代フランスの二大女優と言われる、カトリ-ヌ・ドヌ-ヴ、エマニュエル・ベア-ルら、豪華なキャスティングで評判になった作品だ。
ティエリ-・クリファ監督が描いた、生き生きとした人間讃歌の映画である。
・・・秘密、裏切り、嫉妬、帰りたい場所、悩みさえも人生のエッセンスに変えて、自分だけのステージに立つ!

この映画の男たちは、誰もがどこか頼りなげで、女たちはしなやかで強い。
だが、それは見せかけだけで、女たちは、男たちの弱さから豊かな感情をもらい、男たちは頼りなげでいながら、女たちから潔さをもらって、人生を生き抜く力を知っていく。

舞台は、南仏ニ-ス・・・。
人生のどんな局面さえも呑みこんでくれる、少しいかがわしいキャバレ-“青いオウム”だから見ることのできた人生の素顔・・・。
ここでは作り笑いも、人生も、誰かを演じていても、そこから、そこはかとなく、人生の真実がこぼれ落ちる。嘘をつくのは、人を傷つけるためではなく、人を恐れてのことなのだから・・・。
そんな中で、ぶつかり合う人生は、当然のように、痛みに耐えかねて血を流すが、彼らは、自らの傷をなめるように歌いつつ、心を癒していく・・・。

この映画では、女優ベア-ルが歌い、ベラスも歌い、ブラッス-ルまでもが女装して歌っている。
しかも、この映画では、その歌は本職の歌い手が歌う以上に心に響き、深い余韻を残すのだ。
それは、演技以前の彼らの実人生が、歌に複雑な陰影を与えているからだろう。

ニ-スにあるキャバレ-“青いオウム”・・・。
そのオ-ナ-であるガブリエル(クロ-ド・ブラッス-ル)の突然の死・・・。
葬儀の後で、彼の遺言により、小さな誤解から疎遠になっていたファミリ-が再び集まってくる。
ガブリエルを父のように慕うマジシャンのニッキ-(ジェラ-ル・ランヴァン)の予想に反し、“青いオウム”はニッキ-にではなく、彼の子供たちに相続されることになる。
そんな“青いオウム”で、人気の歌姫レア(エマニュエル・ベア-ル)、そして、かってニッキ-を愛した元妻アリス(カトリ-ヌ・ドヌ-ヴ)とシモ-ヌ(ミュウ・ミュウ)も、ガブリエルの死をきっかけに、それぞれが過去に置いてきた秘密や、いま抱えている問題を見つめなおし、忘れかけていた自分らしさに改めて気づく・・・。

南仏のキャバレ-に集う人々の、複雑に絡み合う人間模様を、鮮やかに、軽やかに描く。
実力派の俳優陣が集結して、ヨ-ロッパ映画、とりわけこのフランス映画の持つ、気品と優雅、機知と諧謔(洒落、ユ-モア)を存分に堪能させてくれる。
ドラマは、謎解きの要素を散りばめながら、あっと思うような意外な展開を見せる。

ガブリエルは、実は病気を苦に自殺したのだが、やがて、沢山の小さな秘密と虚実が、少しづつ暴かれていくことになる。
アリスの封印された過去と、ニッキ-への愛と憎しみ、そのニッキ-との一夜の情事で身ごもり、捨てられたはずのシモ-ヌが真に愛した意外な相手・・・。
さらに、父に似ないために、ニノ(ニッキ-とアリスの息子)が重ねてきた涙ぐましい努力、マリアンヌ(ニッキ-とシモ-ヌの娘)が、不妊でもないのに養子をとろうとする本当の理由、これらすべての中心にガブリエルが、そしてニッキ-がいた。
しかし、すべての嫉妬、裏切り、誤解は、やがて美しい想い出に変わり、その時、それぞれの新しい一歩が始まるのだ・・・。

この作品の中のカトリ-ヌ・ドヌ-ヴは、演技など必要ないほど色彩豊かな存在として映る。
堂々たる、素晴らしい存在感がある。
・・・いつも蝶を追うように、美しい女に心奪われて、どこか頼りなげなランヴァンの、その頼りなさを見抜いて“青いオウム”を渡さなかったブラッス-ルに反して、ドヌ-ヴは、愛し合った過去を共有する元夫の彼が、他の女ベア-ルを追っているのを知って、彼の頼りなさを<男>に変えるために、深い愛情をもって一夜をともにする。
翌朝、見事に<男>になったベッドの上のジェラ-ル・ランヴァンを、満面の笑みを浮かべながら見つめるカトリ-ヌ・ドヌ-ヴ・・・。
 「美しい想い出といっしょに消えたい」
そう言って、自分の人生に自らキリをつけたブラッス-ル、そのブラッス-ルの精神を継いで、生きることの実を伝えるべく、この映画の登場人物の上に君臨するのは、間違いなくこのカトリ-ヌ・ドヌ-ヴなのである。

カトリ-ヌ・ドヌ-ヴと言えば、初期の作品『昼顔』(原作ジョゼフ・ケッセル、公開1967年)を想い出してしまうのだが、彼女の、華やかで、艶麗な美しさは、今でも語り草になっている。
そうだった。・・・あの映画も、心ときめく、いい映画であった。
・・・もう、何年になるだろうか。
あれからの幾歳月を超えて、カトリ-ヌ・ドヌ-ヴは、今や押しも押されぬ大女優の貫禄躍如といったところで、一段と円熟味を増した、彼女のいぶし銀の輝きを見た。
さすがに、映画「輝ける女たち」の中でも、フランス映画界の女王陛下は、すこぶる健在の御様子である・・・。