2008年6月28日 雌阿寒岳
5時30分、登山口にあるポストの登山者帳に名前と下山時刻を記入してスタート。今日も針葉樹の森の中を行く。北海道の針葉樹には、エゾマツ、トドマツなどがあるが、見分ける方法は木の肌と樹形で分かるとのこと。
アカエゾマツの林には、マイズルソウやゴゼンタチバナが目立つ。マイズルソウは山陰の大山でも見かけるが、ゴゼンタチバナはない。この花の南限は本州中部あたりであろうか。6時05分、3合目。ハイマツ帯に入りイソツツジを目にするようになる。すっかり晴れ上がった青空の下、火山特有の砂礫の道をひたすら登る。今日はコンデションも良いらしく、息は上がるのだが、あまり苦しくは感じない。6時55分、7合目着。左下遙かに、オンネトー湖の青が見える。火口壁の間に、赤沼が見え出すと頂上は近い。
7時35分頂上に到着。今日も360度の眺望が得られた。昨日登った雄阿寒岳、すぐ目の前には、阿寒富士。驚かされたのは、青沼の美しさだ。頂上より稜線通しにわずかに下ると、まん丸い青沼が現れる。小さな池なのだが、そのまん丸な形と美しい青の色合いに思わず息を飲む。不毛の大地に、青く輝く宝石を置いたようだ。
青沼を右手に見ながら、阿寒富士に向かう。ザクザクとした砂礫の道を下ると、阿寒富士とオンネトーとの分岐に着く。阿寒富士の頂上に向かって、ジグザグと踏み跡が見える。 砂礫のもろい登り道だから、何とも歩き辛いが一歩一歩確実に進む。約25分程で頂上に着く。時計は8時25分だった。
ここから望む雌阿寒の姿は、雄大そのもの。雄阿寒岳が背景に小さく見える。緑豊かで端正な雄阿寒岳に対し、今なお噴気を出し続ける雌阿寒岳は荒々しくエネルギッシュな迫力に満ちている。
阿寒富士と雌阿寒岳への分岐まで下りる。この辺りには、コマクサをはじめメアカンフスマ、メアカンキンバエなどが荒涼とした砂礫地に赤、白、黄色の美しいアクセントを付けて目を楽しませてくれる。
オンネトーへと下る途中、登ってくる小学生の一団に出会う。1年生から6年生までの一団だが、人数からいって近くの分校の生徒たちだろう。低学年は途中で引き返すそうだ。 登ってくるのを、道の隅の朽ち木に腰掛けて待つ私を見つけて、不思議そうな顔をしていた。1・2年生の幼い生徒たちがチョロチョロするので引率の方々も大変そう。
最近、学校の行事の中からこのような活動がなくなりつつある。授業時間確保とか安全面での心配とかいろいろとあるのだが、残念なことだ。このような生きた自然の中での体験が肥やしとなり、教育の基礎・基本となる土台の部分を形成していることに気づくべきだが、今の教育現場は違う方向へと進んでいるように感ずる。
樹林帯を抜けると、オンネトーキャンプ場に前出る。ここからオンネトーの湖畔沿いに今朝方出発した登山口まで国道を歩くことになる。
オンネトーは、青々とした水をたたえた実に美しい湖だ。頂上の青沼も美しかったが、近づく事はできなかった。また、百名山では、草津白根山の湯釜が神秘的で美しいのだがこの湖がミルキーブルーなら、オンネトーはコバルトブルー。それも、水際まで近寄れる。水底に沈んだ倒木が手に取るように透けて見える。必見の湖だと思う。湖面に映し出された雌阿寒岳と阿寒富士が、豊かに吹き抜ける風に揺れてた。
写真を撮っていると、木陰に休んでおられた男性から、「小学生たちとどの辺りで会われましたか」と聞かれた。教育委員会の方らしく、生徒たちの登山の安全を心配して待機しているとのことでしばらくお話をする。
11時20分、雌阿寒岳登山口に帰着。イオウの匂いの強い温泉に沈。今日の疲れが癒されるような心地がする。
明日は懸案の幌尻岳だ。風光る大地、どこまでも続く原野、北海道の田園は広く果てしない。本土は今梅雨らしいが、ここは梅雨を知らない別天地だ。夕刻幌尻岳登山の駐車場に着く。
幌尻岳は課題の山だ。十分な下調べもしないでいたものだから、北海道に到着してからこの山の難しさを知り当惑する。
一つは、時間のかかる山だということ。もう一つは、徒渉があるということ。ガイドブックを良く読んでおけば良かったのだが、今となっては仕方がない。現実的な対応をするしかない。
山小屋利用も考えたが、小屋から頂上までの時間と、帰りを考えるてテント泊と決める。また、沢歩き用の履き物がないため、運動靴で代用し、沢でのズボンは雨具を使用することにした。心配なのは水量と水温であるが、これは沢に入って見なければ分からない。
幌尻岳の駐車場は車道の途中にあり、車はここでストップで、ここからさらに2時間程度歩かないと沢に入れない。夕暮れの中、明日の準備にかかる。
そうこうしていると、車が1台到着する。群馬県から来たという親子で、母親と大学生らしい息子の二人づれだ。明日早朝に発ち、一日で終えるという。幌尻岳が、日帰りも可能だと、この時始めて知った。夜半、もう1台車が到着する。