テントまで帰ったが暗くなるまですこし間がある。明日は早朝の出発だから帰りの準備だ。といっても、ゴミの始末くらい。足の様子を見るため靴下を脱いでみたが何とも哀れな有様です。
右 足 : 足裏は、親指の付け根にマメ。中指はツメが内出血。薬指と小指は擦れて皮がむけている。
左 足 : 足裏は、右足に同じで親指の付け根にマメ。中指と小指のツメが内出血。
歩いているときはあまり感じないが、こうして休んだりしていると痛くなる。水を汲みに行くのも難儀だ。残りのウイスキーをチビリチビリとやりながら番屋でもらった食料を食べる。おかげで食料はあまった。残飯はビニール袋に入れて少し離れた所に置き、コンテナーに残りの食料を入れ別の所に置く。ルサフィールドでは、コンテナーは、100m以上は慣れたところに置けと指導を受けた。
テントの中から海が見える。昨日と同じ所に船が2艘いる。漁なのか網の点検なのかよく分からない。クナシリは今日も霞んで見える。7時過ぎに酒もなくなり、いよいよ何もすることがないので寝ることにする。潮騒の音がイヤに大きく聞こえる。夜半星が出ていたが、北の方は雲に被われて何も見えなかった。そろそろ天気も下り坂になるはずなのですこし心配する。疲れているのでよく眠れる。クマ避けスプレーを近くに置いて寝た。
朝、海の向こうはやはり雲に被われているが、西は青空が・・・。太陽が雲間から出たのが4時20分頃。昨日置いておいた残飯を入れたビニール袋が食い破られていた。足跡から狐の仕業らしい。コンテナも、すこしばかり移動していたが、中身は大丈夫。
5時過ぎにスタートする。来た道を引き返す訳だから気分的には楽だが体はだいぶ参っている。荷物もそう軽くなってはいない。潮位は来たときよりもすこし高いし、風がある。しかし、気にするほどではない。今日も笛を吹きながら歩く。ルートは、来たときと帰りとではほほ同じだが、大きな岩を回り込んだり、登ったりする箇所は若干違っていたように思う。鹿の角を何箇所かで見つけるが持ち帰れそうにない。頭蓋骨付きは重い。
1回目の徒渉点に到着。岸辺をへつりながら慎重に進む。胸まで浸かりながらへつり間単にクリヤーする。あまり大きな登り下りはないが、足下の変化は激しい。砂、小石、大石、崖、壁等々。歩く動作に時折飛ぶ動作が入る。中程度の大きさの石と石との間は飛ぶことになる。それで、二番目の徒渉点に来た。かまわず海に入り、ここも胸あたりまで浸かりながら回り込む。濡れて体が重いことと、少し波がある事などで陸の上になかなか這い上がれない。とりあえず、すぐ側にある瀬に這い上がり向こう側へ飛び移った。その時、右膝の後ろあたりが「グギ」と音を立てて、激痛が走る。
瞬間、頭が真っ白くなった。痛いのと同時に、歩けなくなったのではないかという不安が頭をよぎる。しばらくしゃがみ込んでから、そっとたちあがってみる。痛いが何とか歩けそうだ。
無人の番屋までやって来てしばらく休む。右足のつま先に力が入らない。
流木の中から、杖になりそうなものをさがす。手頃なものはなかなか見つからないけどあるもので済ませるしかない。まだ半分も帰っていない。つま先に力が入らないのでかかとで歩く。まあ、歩けるだけでも良いとしなければいけない。足のまめの痛さなんかはもう全然気にならなくなった。
遙か彼方に見えていペキンの岬が、すこしづつ近づき、そして目の前にある。 ちょっとした登りに手(足)を焼いたが、何とか乗り越し反対側に下りる。同じような海岸線をひたすら歩く。間もなくモイレウシ湾ではないだろうかと期待が膨らむ。モウレウシ湾まで着けば観音岩まで2時間くらいで、観音岩まで帰ればもう帰ったようなものだろう。
足下を濡らしながらまだかまだかと同じような岩壁を何度も回り込むと、ついに着きました。モイレウシ湾へ。漁師さん達が仕事をしている横を、邪魔にならないように行くと、「クマはどうだった」と声を掛けられた。漁師さんから声を掛けられるパターンは決まっていて、行く時は大体「クマがいるぞ」で、帰りは「クマはどうだった」だ。やはり漁師さん達もクマを気にしているらしい。
観音岬が見えてくるがまだまだ遠い
モイレウシ湾の南側に高巻き用のロープが設置されていて、ここを抜ければ次なる目標は観音岬となる。痛めた右足は麻痺でもしてきたのかあまり痛みは感じなくなった。とにかく、あまり考え事はしないで、早くもなく遅くもないペースで歩く。女滝のキャンプ地を出てからほとんど休んでいないが何とか歩き続けられそうだ。
観音岬のすぐ手前に、砂浜があり小さな港がある。岩場を回り込むとその港が現れる。砂地に下りると向こうから誰かやってくる。漁師でもないし、トレッカーとも違う。制服を着ていて巾広の帽子がかっこいい。足下は、長めのブーツでかためている。「様子を見にきました」と言われたとき一瞬戸惑ったが、よく見るとルサフィールドの職員さんだった。「元気そうですね」とも言われた。年寄りの一人歩きだから心配を掛けたようだ。
「もう問題の箇所はありません」、「私は、もう少し先まで行ってきます」と言われて別れた。観音岬の高巻き箇所に着く前に川が流れていて、その周囲はちょっとした草むらになっている。ここで、道を間違えてウロウロしたがすぐに正しい道(橋)を見つけて渡る。ロープをたよりに急な崖を登り、急な泥の壁をこれまたロープをたよりに下ると観音岬は終わる。
来たときと同じような風景がひろがる。カモメの集会所
ついに帰った。何かホットした。しかし、ここから相泊の港までが長く感じられた。流木をダブルストック代わりにポツポツと歩く。くたびれ果てているのは自分でもよく分かるのだが、休む気はしない。しばらくすると、前方に2人ずれが、これまたくたびれ果てたような格好で歩いているのを見つける。最初は、ご夫婦かと思った。私に追いつかれるようだからよほどくたびれているのだろう。そのうちに座り込んでしまった。追いついてお話を伺うと、知床岳からの帰りだそうで3泊4日かかったといわれた。後で分かったことだが、一人は地元ガイド、一人はルサフィールドの女性職員さんでした。
知床岳とは、魅力的な響きがするが展望もなくあまりおもしろくないそうです。名前にひかれて登るようです。
お話をしてから、最後のがんばりと歩き出すがなかなか終点はやってこない。行く手にチラホラ民家が見えて来た。犬が吠える。漁師さんがチラチラこちらを見ている。15時30分くらいか、やっと帰着。やれやれの知床探検が何とか終わりました。
ルサフィールドへコンテナを返しに行く。
この後、相泊の温泉に入り熊の湯キャンプ場へ。
テントは使わずに、車で寝る。
(知床岬 その4)