2008年 4月20日~21日 大峰山(八経ヶ岳)
松江を18日に発つ。夕刻、洞川到着。昨年の暮れに訪れているので多少の知識はあるのだが、細部は知らないことばかりだ。
いくら百名山といっても、登山シーズンをはずれると閑散として人気もなく、ましてや年の暮れなどに至っては寂しさばかりが北風に舞っている。大峰山も大台ヶ原も例外でなく、重苦しい雪雲の中に沈み込んでいたのを昨日の事ように思い出した。
今回、春の雪解けを待っての再挑戦。しかし、天候は思わしくなく、翌19日も登山はあきらめて下見を兼ねて周囲をドライブする。
昨年は、天川村から上北山村へ抜ける道路は閉鎖されていたのだが、今年はすでに開通していた。大峰山から大台ヶ原に抜ける最短コースでもあるこの道は、途中、ミタライ渓谷などの名勝もあり、迫力満点のスリルに満ちたコースだ。昨年引き返さざるを得なかった大川口の橋を渡り、行者還トンネルの入り口に着く。ここから大峰山の主峰八経ヶ岳への最短のコースは始まるのだが、今回は、大峰山寺の建つ山上ヶ岳からの縦走と決めていたので登山口を記憶に留めて置くだけとする。
トンネルを抜け、急な細道を下ると国道に出る。国道を左折し、大台ヶ原ドライブウエイの標識に導かれて進むと、やはり昨年引き返さざるを得なかったゲート前に出る。
なんと、今年もまだゲートは閉まったままだ。五月に入らなければだめなのだろうか?車が駐めてあり、数名の方が話しておられる。道の事を聞くにやはりダメらしい。特に今日はシカの駆除があり、猟銃を使うので危険とのことだ。
いよいよ行く当てもなくなり、温泉にでも浸かろうかと思い近くの温泉を捜と、小処温泉というのがある。聞いたような気のする名前だがとにかく行ってみることにする。小橡川の奥にひっそりと佇む温泉だが、今日は休み。
しかし、この温泉は大台ヶ原登山の基地でもあるらしい。少し引き返すと、大台ヶ原へ抜ける林道があり、進入禁止を示す置物が横に退けられている。どうも車が入っているようなので私も入ってみることにする。
グングンと進むが人気はない。時折、鹿が現れては驚いて逃げていく。天気が良ければ最高のドライブ日和となりそうなのだが、太陽は時折雲間から顔を覗かせる程度だ。時折、霧とも雲ともとかないガスに被われらがら、何とか大台ヶ原の駐車場に着いた。
大台ヶ原ビジターセンター前に数台の車が駐めてあり、幾人かの人がバタバタしている。その中の一人がやって来て、「私は、環境省の・・・です」と自己紹介があり、一般の人はまだここへは入れませんとのこと。丁重な拒否の挨拶を受け、引き返すこととする。鹿の駆除があり神経を使っている様子だ。
今日の下見は予想以外の収穫なので気持ちよく帰ることとする。結局、19日はまた洞川温泉センターの駐車場で泊まることとする。
20日、天気も良くなってきたようだ。7時30分、大峰大橋の有料駐車場に車を停めスタート。やっと懸案の山に登ることができそうだ。テント泊の準備なのでザックは重いがとにかくゆっくり歩くことにする。静寂な杉木立の登路、少し水分を含んだような大気、小鳥の声がよく響く。9時20分洞辻茶屋着。青空も見え始め、天気は回復に向かいそうだ。しばらく休んでいると、後から人の声。どうやらゆっくり歩きすぎたらしい。何も急ぐ必要はないのだが、腰を上げることとする。
道は二手に分かれる。いわゆる登り専用の道と下り専用の道だ。どちらが歩きやすいのか分からないが、とにかく登りの道を行くこととする。急な岩場、時折雪の斜面に出くわす。ズックなどでは大変だろうな、などと思いながら乗り越す。徐々に展望も開けて来る。
また人の声を聞く。自分より先を行く人はいないはずなのだが、と思いながら進むと「西ノ覗」に数名の人がたむろしている。断崖絶壁の上から、太い綱を巻き付けて谷底へ体を覗かせる修行だが、確かに迫力満点。お前もやってやろうかと進められたが、体に悪そうなのでお断りする。この方たちは、先ほどの「下り専用」の道を登ってこられたそうだ。「登り道」は、雪があり、危険だと宿の方に聞かされていたとのこと。
間もなく、宿坊らしい建物が現れ、さらに行くと大峰山寺だ。1719mの山上ヶ岳には11時着。天候もすっかり回復し、大峰山寺前で一休みする。先客の一団は、山上ヶ岳の頂上で早い昼食らしい。
いよいよ世界遺産大峰奧駆道の核心部に足を踏み入れることになる。山上ヶ岳から弥山・八経ヶ岳間が難場中の難場らしい。気を引き締めて歩き始める。天気は確実に回復した。 落ち葉の積もった中に修行者が歩いたであろう道が続く。時折、残雪に埋もれてルートを見失うが何とか13時40分、1779,9mの大普賢岳に到着する。やせた岩の尾根道、急峻な登り下りの険路はますます多くなる。
国見岳、七曜岳といくぶんくたびれかけてきた体にむち打ち先を急ぐ。そろそろねぐらをさがさないといけない。水の音を聞き、行者還小屋を見る。冷たい水を汲み足し、小屋に入る。無人の山小屋にしては立派な小屋だ。4部屋あり、水場も近いから山小屋泊まりの登山者にとっては格好な場所だろう。
まだ幾分か時間の余裕もあるので、もう少し先へ進むことにする。道もいくぶん穏やかになってきた。どうやら今日の難場は越えたらしい。 行者還岳を回り込み、一ノ峠手前の明るい尾根筋で今日の歩みを終えることにする。時計は、17時20分。18時、テントを張り終えウイスキーの水割りを始める。つまみは、チーズ、スルメ、貝柱等。ラジオが良く入る。ドイツでは、ビールは液体のパンと言われているそうな。ラジオでそんな話を聞きながらぼんやりと時を過ごす。
お湯を沸かし、夕食の準備を始める。いくぶん疲れているのかあまり食欲はない。簡単な食事を終え、暗くなったのを幸いに早々に寝る。夜中トイレに起きるが、木立の間に満点の星を見る。下界の光もチロチロ見える。風もなく穏やかな夜だ。古の修験者たちもこのような幾夜を過ごしたことだろう、と思いながらまた寝袋にもぐり込む。
21日5時20分日の出を見るが、すぐ雲間に隠れる。7時正式に起床。ビールで朝飯を済ませる。晴天、快晴、鳥の声。枯れ朽ちた倒木のがあちこち。昨夜は気がつかなかったが、シカの糞が散乱。
9時20分、弁天の森。10時50分弥山。意外に多い残雪に驚く。最高峰八経ヶ岳へは残雪の中を歩く。オオヤマレンゲはまだ眠ったままだ。あの白い花を愛でられるのはいつの頃だろうか。11時25分、八経ヶ岳1914,9mに立つ。
今年度、百名山の第1号だ。風弱く、快晴。絶好の山日和だ。越してきた山々が青空の中に映える。
帰りは、狼平から栃尾辻を経て天川役場横に下り立つ。役場前からタクシーを呼び、大峰大橋に措いてある愛車まで帰る。道々、タクシーの運転手さんから、大峰山の事故や危険さについていろいろなお話を聞く。
百名山の1つである八経ヶ岳に登り、世界遺産の大峰山寺と奧駆道を歩けたこと大きな収穫だ。大台ヶ原はまたの機会として取っておくことにする。