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日本と英国の人名ベスト10比較─人名に見る世界史(7)

2006-06-11 | └人名に見る世界史
これまで『人名の世界史』及び『人名の世界地図』をもとに、世界の「姓」について記してきましたが、引き続き「名」の方を見ていきたいと思います。

子どもが生まれて親が最初にやらなければならない大仕事が「名前をつけること」です。そこには、いろんな思いや意味が込められています。同じ名前の人でも、その名前がつけられた理由はそれぞれに違うでしょう。そういう意味では、自分という人間が世界でたった一人しかいないように、自分の名前も世界でたった一つしかないのです。

「同じ名前」といえば、毎年、明治安田生命が生まれ年別の名前調査をしています。それをもとに、10年ごとの男子の名前ベスト10(数が多いという意味の)を並べてみました。

2005(平成17)年◆ 1 翔・大翔 3 拓海 4 翔 5颯 6翼 7海斗・輝 9太陽・大和
1995(平成 7)年◆ 1 拓也 2 健太 3 翔太 4 翼 5 大樹 6 大貴 7 翔 8 亮太 9 拓哉 10 雄大
1985(昭和60)年◆ 1 大輔 2 拓也 3 直樹 4 健太 5 和也 6 達也 7 亮 8 翔 9 洋平 10 徹
1975(昭和50)年◆ 1 誠 2 大輔 3 学 4 剛 5 大介 6 直樹 7 健一 8 淳 9 崇 10 亮
1965(昭和40)年◆ 1 誠 2 浩 3 修 4 直樹 5 哲也 6 和彦 7 豊 8 剛 9 学 10 隆
1955(昭和30)年◆ 1 隆 2 誠 3 茂 4 修 5 豊 6 博 7 稔 8 進 9 清 10 勉
1945(昭和20)年◆ 1 勝 2 勇 3 進 4 清 5 勝利 6 博 7 勲 8 弘 9 稔 10 修
1935(昭和10)年◆ 1 弘 2 清 3 勇 4 実 5 博 6 進 7 正 8 茂 9 隆 10 稔
1925(大正14)年◆ 1 清 2 茂 3 勇 4 三郎 5 博 6 実 7 弘 8 正 9 一郎 10 進

ここ80年ばかりの間に、日本人の名前の傾向が大きく変わったことが明らかです。戦争が終わった昭和20年には、まだ「勝」とか「勇」とか「勝利」とか、戦争を連想させる名前が多いようです。昭和30年代までは、見事に「漢字1文字」名前のオンパレードです。また、昭和50年のベスト10に入っている名前が、20年後のベスト10には一つも入っていません。最近の日本人の名前の好みの変化がいかに激しいかということがうかがわれます。もちろん、明治以前、あるいはさらに何百年も前にさかのぼってみると、80年前に多かった名前ですらまったく見あたらないだろうことは容易に想像できます。

転じて、英国の名前はどうでしょう。『人名の世界史』には、英国のベスト10の変遷が載っています。

2004年◆ 1 ジャック 2 ジョシュア 3 トーマス 4 ジェームズ 5 ダニエル 6 オリバー 7 ベンジャミン 8 サミュエル 9 ウィリアム 10 ジョセフ
1981年◆ 1 アンドリュー 2 デービッド 3 ダニエル 4 クリストファー 5 ステファン 6 マシュー 7 ポール 8 ジェームズ 9 マーク 10 マイケル
1950年◆ 1 デービッド 2 ジョン 3 ピーター 4 マイケル 5 アラン 6 ロバート 7 ステファン 8 ポール 9 ブライアン 10 グラハム
1900年◆ 1 ウィリアム 2 ジョン 3 ジョージ 4 トーマス 5 チャールズ 6 フレデリック 7 アーサー 8 ジェームズ 9 アルバート 10 アーネスト
1800年◆ 1 ウィリアム 2 ジョン 3 トーマス 4 ジェームズ 5 ジョージ 6 ジョセフ 7 リチャード 8 ヘンリー 9 ロバート 10 チャールズ
1700年◆ 1 ジョン 2 ウィリアム 3 トーマス 4 リチャード 5 ジェームズ 6 ロバート 7 ジョセフ 8 エドワード 9 ヘンリー 10 ジョージ

これを見ると、英国でもけっこう「名前のはやりすたり」はあるんだなーと思います。2004年のトップ、ジャックなんて、少なくともこの300年間では初めて上位に出てくる名前です。1700年以来、1950年までは常に1~2位につけていたジョンは、最近は人気は落ち目のようです。同じように伝統的な名前の1つであるウィリアムは、1950年にベスト10から滑り落ちましたが、2004年には復活の9位。これは英国王室の「ウィリアム王子」(1982年生まれ)の影響なのかもしれません。

ヨーロッパでは個人名をクリスチャンネーム(洗礼名)と呼びます。名前は、神から授かった神聖なもの。だから、日本人の名前のように、漢字や読み方の組み合わせによって名前のつけ方がほぼ無限に存在するのとは違って、かつては教会が洗礼名をリスト化していたことからもわかるように、「使用可能な名に制限が加わ」っていました。たとえば、英国のベスト10に見られるポール、ジョン、トーマス、ステファンといった名前はキリスト教の伝道者や聖人の名に由来するものです(いずれ詳述します)。多少のはやりすたりはあるにしても、たぶん1,000年前のベスト10と、登場する名前はそれほど変わっていないのではないかと思います。ちなみに、ジョンやウィリアム、ジェームズ、リチャード、ジョージ、エドワード、ヘンリーといった名前は、かつてのイングランドの国王の名前として歴史上にその名を残しています。

「名前は神からの授かりもの」という考えはキリスト教世界に限ったことではなく、名前に神聖を認め、命名の儀式をおごそかに執り行う文化圏は数多い。その一方で、世界には、新生児にわざと良くないイメージの名前をつける習慣を持つ地域もあります。その理由は、「悪霊よけ」です。「縁起のよい立派な名は、神に愛でられて悪霊の妬みを買いやすいため夭折する」(『人名の世界史』)というわけです。この俗習についても、改めて触れてみたいと思っています。

いずれにしても、名前は、個人を他と識別するための符号という意味だけではなく、その個人の全人格、魂を表現するものなのです。

 

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