
上野の国立西洋美術館で開催されている「大英博物館古代ギリシャ展」。大英博物館の「ギリシア・ローマ部門」は、10万点以上(!!)の収蔵品を持つのだそうですが、その中から、サブタイトル「THE BODY 究極の身体、完全なる美」のとおり、古代ギリシア人が愛してやまなかった「人間の肉体美」を表現した作品を中心に構成されています。「最大の見所」は、日本初公開の《円盤投げ(ディスコボロス)》。
それにしても、「ギリシア」って、「ローマ」に比べたらちょっとばかりマイナーな扱いをされてます。それは解せないナーといつも思っています。確かに、都市国家(ポリス)の集合体でしかなかった古代ギリシアは、地中海を内海としてしまうほどの大帝国を築いたローマ帝国と比べたら、ずいぶん地味。でも、「武力で征服されたギリシアが、文化ではローマを征服した」という言葉を待つまでもなく、ギリシア文化が、ローマはもちろん、その後のヨーロッパ文化に与えた影響は計り知れないものがあります。その証拠に、今回の展覧会も、「ギリシア展」とはいうものの、多くの作品が、よくよくキャプションを読んでみると、ローマ時代に複製されたものだったり、ヘレニズム時代につくられたヴァリアント(変形版)だったりします。たとえば、いかにもギリシア風のアンフォラ(壺)など、実はローマ時代のレプリカだったりするわけで。あの「円盤投げ」だって、元々の作品は、彫刻家ミュロスが前450~440年頃に製作したブロンズ像ですが、今回展示されているのは、それから600年以上のちの2世紀に大理石で複製されたものなのです。古それでも貴重なことには違いないのですが、ギリシア時代の「現物」でないことに、ちょっとがっかりしたりもします。
ちなみに、ここでちょっと古代地中海世界のおさらいをしておくと…。
古代ギリシアにポリスが成立したのは、紀元前8世紀頃から。最大のポリス、アテネの最盛期は、おおよそ、紀元前5世紀の後半(前450年から前400年頃)頃です。紀元前4世紀に入るとポリスは衰えを見せ、前338年、北方のマケドニアに敗れてしまいます。そのマケドニアの王、アレクサンドロス大王が「東方遠征」に出発したのは前334年。ここから約300年間が、いわゆる「ヘレニズム時代」です。「ヘレニズム」というのは、古代ギリシア人が自分たちのことを「ヘレネス(=高貴なる者)」と呼んでいたことに由来します。つまり、「ギリシア風」ってことですね。ギリシア人の文化を核として、東方のオリエント文化が融合して生まれたのが「ヘレニズム文化」なのです。
一方、イタリア半島では、ギリシアでポリスが成立したのと同じ頃に、都市国家が成立していました。ただ、ギリシアが、アテネを含めて最後まで規模の小さな都市国家で終わったのに対して、イタリア半島では、ローマが、他の都市国家を次々と征服して領土を拡張していきました。紀元前3世紀前半には、イタリア半島をほぼ統一しています。そして、次に地中海を渡ってカルタゴを破り、北アフリカ一体を征服(ポエニ戦争)。さらに東方にも進出して、ヘレニズム諸王朝を平定していきます。ヘレニズム時代の最後の王朝がエジプトにあったプトレマイオス朝で、その最後の国王となるのがクレオパトラです。前31年、ローマはプトレマイオス朝を滅ぼして、地中海世界の統一を完成します。ここから、ローマ帝政は最盛期を迎えていきます…。
まあ、コピーされるということは、それだけ古代ギリシアの文物が、ヘレニズムやローマ時代の人々にとっても憧れの的だった証しなんだろなあと考えることにしよう。そうやって「ローマン・コピー」を残してくれたからこそ、のちにルネサンスも花開くわけだし、何より、現代の私たちも、古代ギリシアの息吹を感じることができるのだから。
今回の展覧会は、次の4つのパートから成っています。
Ⅰ 神々、英雄、別世界の者たち
Ⅱ 人のかたち
Ⅲ オリンピアとアスリート
Ⅳ 人々の暮らし
Ⅰでは、ゼウスやヘラクレスなど、ギリシア神話に出てくる神々の姿を描いた彫像が中心です。阿刀田高の『ギリシア神話を知っていますか』など読むと、古代ギリシア人の神々がいかに「人間くさい」かがよく分かります。神だから、底知れぬパワーをそれぞれ持ってはいるのですが、男女を問わず、楽しいことが好きだし、恋もするし(よこしまなのも含めて)、駆け引きするし、嫉妬もする。要するに、喜怒哀楽が極めて激しい。もちろん、その肉体は、人間の「究極の姿」です。自身を描いたあまりにも美しい彫像を見て、ある女神は「どこで私の裸を見たの?」と言ったというエピソードがあるくらいです。
《ゼウス小像》
その「肉体美」は、次のⅡでふんだんに見ることができます。面白いのは、古代ギリシア人もはじめから写実的な肉体美を描いていたわけでなく、もっとも古い時代の彫像は、むしろ、あの直立型の、造形としては面白くも何ともない、古代エジプト風に描かれていること。ギリシア人は、長い時間をかけて「肉体の究極的な美しさ」にたどり着いたのです。
その代表作の一つとされるのが、「円盤投げ」というわけです。今まさに円盤を投げようとする、ほぼ完璧なプロポーションを見事に写し出しています。そういう「肉体派」が、4年に1度わんさと集って競ったのがオリンピア競技会。スポーツ大会というより、元々は、むしろ神々に捧げる祭事でした。Ⅲで、当時の競技会の様子を垣間見ることができます。勝利の女神「ニケ」といえば、ルーブルにある「サモトラケのニケ」が私は大好きなのですが、ここでは前500年頃につくられた小さなニケ像(ブロンズ)を見ることができました。翼を持つニケは、競技会で勝利した選手に様々な恩恵を与えてくれる神。「なでしこジャパン」にも、きっとニケがほほえんでくれたに違いありませんね。ちなみに、スポーツメーカーのNIKE=ナイキは、「ニケ」に由来しています。
《ニケ小像》
最後に、Ⅳでは、古代ギリシア人たちの生と死、それから愛と欲望の姿が示されます。基本的には、現代の私たちとなんら変わらないけれど、彼らが持っていて、今の私たちが失ってしまったものもきっと多いのだろう、とも思いました。
本当に、こういう展覧会を見ると、もっと注目されていいと思うのですが、古代ギリシア。いろいろなことのルーツの多くが古代ギリシアにある。でも、やっぱり「地味」なのかなあ。
それにしても、「ギリシア」って、「ローマ」に比べたらちょっとばかりマイナーな扱いをされてます。それは解せないナーといつも思っています。確かに、都市国家(ポリス)の集合体でしかなかった古代ギリシアは、地中海を内海としてしまうほどの大帝国を築いたローマ帝国と比べたら、ずいぶん地味。でも、「武力で征服されたギリシアが、文化ではローマを征服した」という言葉を待つまでもなく、ギリシア文化が、ローマはもちろん、その後のヨーロッパ文化に与えた影響は計り知れないものがあります。その証拠に、今回の展覧会も、「ギリシア展」とはいうものの、多くの作品が、よくよくキャプションを読んでみると、ローマ時代に複製されたものだったり、ヘレニズム時代につくられたヴァリアント(変形版)だったりします。たとえば、いかにもギリシア風のアンフォラ(壺)など、実はローマ時代のレプリカだったりするわけで。あの「円盤投げ」だって、元々の作品は、彫刻家ミュロスが前450~440年頃に製作したブロンズ像ですが、今回展示されているのは、それから600年以上のちの2世紀に大理石で複製されたものなのです。古それでも貴重なことには違いないのですが、ギリシア時代の「現物」でないことに、ちょっとがっかりしたりもします。
ちなみに、ここでちょっと古代地中海世界のおさらいをしておくと…。
古代ギリシアにポリスが成立したのは、紀元前8世紀頃から。最大のポリス、アテネの最盛期は、おおよそ、紀元前5世紀の後半(前450年から前400年頃)頃です。紀元前4世紀に入るとポリスは衰えを見せ、前338年、北方のマケドニアに敗れてしまいます。そのマケドニアの王、アレクサンドロス大王が「東方遠征」に出発したのは前334年。ここから約300年間が、いわゆる「ヘレニズム時代」です。「ヘレニズム」というのは、古代ギリシア人が自分たちのことを「ヘレネス(=高貴なる者)」と呼んでいたことに由来します。つまり、「ギリシア風」ってことですね。ギリシア人の文化を核として、東方のオリエント文化が融合して生まれたのが「ヘレニズム文化」なのです。
一方、イタリア半島では、ギリシアでポリスが成立したのと同じ頃に、都市国家が成立していました。ただ、ギリシアが、アテネを含めて最後まで規模の小さな都市国家で終わったのに対して、イタリア半島では、ローマが、他の都市国家を次々と征服して領土を拡張していきました。紀元前3世紀前半には、イタリア半島をほぼ統一しています。そして、次に地中海を渡ってカルタゴを破り、北アフリカ一体を征服(ポエニ戦争)。さらに東方にも進出して、ヘレニズム諸王朝を平定していきます。ヘレニズム時代の最後の王朝がエジプトにあったプトレマイオス朝で、その最後の国王となるのがクレオパトラです。前31年、ローマはプトレマイオス朝を滅ぼして、地中海世界の統一を完成します。ここから、ローマ帝政は最盛期を迎えていきます…。
まあ、コピーされるということは、それだけ古代ギリシアの文物が、ヘレニズムやローマ時代の人々にとっても憧れの的だった証しなんだろなあと考えることにしよう。そうやって「ローマン・コピー」を残してくれたからこそ、のちにルネサンスも花開くわけだし、何より、現代の私たちも、古代ギリシアの息吹を感じることができるのだから。
今回の展覧会は、次の4つのパートから成っています。
Ⅰ 神々、英雄、別世界の者たち
Ⅱ 人のかたち
Ⅲ オリンピアとアスリート
Ⅳ 人々の暮らし
Ⅰでは、ゼウスやヘラクレスなど、ギリシア神話に出てくる神々の姿を描いた彫像が中心です。阿刀田高の『ギリシア神話を知っていますか』など読むと、古代ギリシア人の神々がいかに「人間くさい」かがよく分かります。神だから、底知れぬパワーをそれぞれ持ってはいるのですが、男女を問わず、楽しいことが好きだし、恋もするし(よこしまなのも含めて)、駆け引きするし、嫉妬もする。要するに、喜怒哀楽が極めて激しい。もちろん、その肉体は、人間の「究極の姿」です。自身を描いたあまりにも美しい彫像を見て、ある女神は「どこで私の裸を見たの?」と言ったというエピソードがあるくらいです。

その「肉体美」は、次のⅡでふんだんに見ることができます。面白いのは、古代ギリシア人もはじめから写実的な肉体美を描いていたわけでなく、もっとも古い時代の彫像は、むしろ、あの直立型の、造形としては面白くも何ともない、古代エジプト風に描かれていること。ギリシア人は、長い時間をかけて「肉体の究極的な美しさ」にたどり着いたのです。
その代表作の一つとされるのが、「円盤投げ」というわけです。今まさに円盤を投げようとする、ほぼ完璧なプロポーションを見事に写し出しています。そういう「肉体派」が、4年に1度わんさと集って競ったのがオリンピア競技会。スポーツ大会というより、元々は、むしろ神々に捧げる祭事でした。Ⅲで、当時の競技会の様子を垣間見ることができます。勝利の女神「ニケ」といえば、ルーブルにある「サモトラケのニケ」が私は大好きなのですが、ここでは前500年頃につくられた小さなニケ像(ブロンズ)を見ることができました。翼を持つニケは、競技会で勝利した選手に様々な恩恵を与えてくれる神。「なでしこジャパン」にも、きっとニケがほほえんでくれたに違いありませんね。ちなみに、スポーツメーカーのNIKE=ナイキは、「ニケ」に由来しています。

最後に、Ⅳでは、古代ギリシア人たちの生と死、それから愛と欲望の姿が示されます。基本的には、現代の私たちとなんら変わらないけれど、彼らが持っていて、今の私たちが失ってしまったものもきっと多いのだろう、とも思いました。
本当に、こういう展覧会を見ると、もっと注目されていいと思うのですが、古代ギリシア。いろいろなことのルーツの多くが古代ギリシアにある。でも、やっぱり「地味」なのかなあ。
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