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カクレマショウ

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「本物」のフェルメールに会う。

2008-08-21 | ■美術/博物
数ある画家の中でも、“フリーク”と呼ばれる愛好者を持つ画家はそんなに多くはないでしょう。17世紀オランダの画家ヨハネス・フェルメール(1632-1675)は、そんな数少ない画家の一人。「光と影」の織りなす優れた作品を残しているだけでなく、何しろ現存する作品数が30数点しかないという「希少性」も、“フェルメール・フリーク”を惹きつける要因なのかもしれません。彼らの中には、世界各地の美術館に散らばっているフェルメール作品の「全点踏破」を目指す人たちも少なくないようで。実際にこの目で「本物」を見たい…というのは、スターの「追っかけ」と同じなのでしょうね。

私自身はと言えば、フェルメール?ああ、頭に青い布を巻き付けてこっちを見ている少女の絵の(「真珠の首飾りの少女」)…程度にしか知りませんでしたが、東京都美術館で開催されている「フェルメール展~光の天才画家とデルフトの巨匠たち~」はぜひ見たいと思いました。

フェルメールの作品は、世界各地に散らばっているらしく、今回展示された7点の作品もあちこちの美術館から借用してきています。主催者の朝日新聞によれば、「7点ものフェルメールを一度に見られるチャンスは滅多にない」のだとか。

今回来日した作品は次のとおり。

1 マルタとマリアの家のキリスト(1655年頃) スコットランド・ナショナル・ギャラリー(エジンバラ)
2 ディアナとニンフたち(1655-1656年頃) マウリッツハイス王立美術館(ハーグ)
3 小路(1658-1660年頃) アムステルダム国立美術館
4 ワイングラスを持つ娘(1659-1660年頃) アントン・ウルリッヒ美術館(ブラウンシュヴァイク)
5 リュートを調弦する女(1663-1665年頃) メトロポリタン美術館(ニューヨーク)
6 ヴァージナルの目に座る若い女(1670年頃) 個人蔵
7 手紙を書く婦人と召使い(1670年頃) アイルランド・ナショナル・ギャラリー(ダブリン)

画家としてのフェルメールは最初、宗教画から入ったようで、最初の2点はその代表作。「ディアナとニンフたち」の方は、神話に題材を得た作品です。のちの、主に家の中の情景を描いた風俗画とは明らかにタッチが異なっています。こういう宗教画家で終わっていたら、現在のフェルメール人気もこれほどではなかったのかもしれません。

フェルメールのフェルメールたるゆえんは、やはり日常の一コマを見事に切り取った風俗画にあります。ヴァージナルやリュートといった楽器、ワイングラス、手紙といったモチーフは、彼が特に好んで描いた「風俗」でした。後半の4作品はそういう意味では、バランス良く選ばれていると言っていいのかもしれません。この4作品については、思わず立ち止まって見入ってしまう魅力が確かにありました。遠くから全体の光と影の絶妙なバランスを楽しみ、近くに寄っては細かい描写を観察する。近くといっても、「柵」があるのでさすがに限度はありますが、それでも、「ホンモノ」をあれだけ近くで見られる喜びは何ものにも代え難い。

フェルメールの作品には、様々な「寓意」が込められていると言います。壁に掛けられた絵や地図、ステンドグラスの模様、読みかけの本…、それらにいちいち「意味」が込められているのです。それを読み解く楽しみもあるようですね。寓意といえば、フェルメールの最高傑作とも言われる「絵画芸術」(ウィーン美術史美術館)は、まさに全編が寓意。少女のまとう青い服は「純潔」を、壁に掛かる地図は「歴史」を表す。様々なアイテムが、様々な意味を示しています。6月末の時点の朝日新聞の広告では、この作品も出品される予定となっていました。ところが、「修復家による専門的な調査の結果、輸送による影響、特に温湿度の変化に伴い、保存状態の悪化が懸念されるという事由」(オーストリア教育文化省の通知)により、結局出品が許可されなかったようです。残念。

事前の宣伝といえば、フェルメールの描いた作品の中で2点しか現存しないと言われる風景画、そのうちの一つ「小路」が初めて日本にやってくるということも、さかんに喧伝されていました。その「小路」は、確かにすばらしかった。今回の7作品の中でも、一番印象に残った作品でした。この作品を撮影し、印刷物として提示される「写真」では到底感じることのできない、あの奥行きの深さはいったい何なのだろう? 左手前に描かれた街路樹はキラキラと光を放ち、小路を経て、一番奥に描かれた空と雲まで、ごく自然につながっていく。やっぱりホンモノはすごいワ、と改めて感じました。

同じく日本初公開と銘打たれた「ヴァージナルの前に座る若い女」。この作品については、いまだにフェルメールの作ではないという説もあるようですが、「ホンモノ」を見てまず驚いたのは、その小ささ。25×20㎝しかない。図録などで見るだけだと、その小ささはなかなか実感できない。たとえば、朝日の事前広告(2008年6月27日付け)でも、この絵は、160×142㎝の「マルタとマリアの家のキリスト」よりも大きなサイズで掲載されているのですから。ホンモノを見ると、何でこんなに小さいキャンバスに描く必要があったのかと思ってしまいます。小さいサイズでも細かな描写ができることを示すためなのか? 少女の愛らしさを強調するためなのか? そうしてじっと見つめていると、いったいどんな絵筆を使ったのかと思うほど、描写が的確で、限りなく豊かな顔の表情に気がついていく。

今回の展覧会は、その7点を中心に、彼が生涯を過ごしたオランダ・デルフトを舞台として活躍した他の画家たちの作品も集められています。順路上、フェルメール7作品を間に挟むように展示されていたそれらの作品の中にも、これはいいなと思える作品はたくさんありました。特に、ピーテル・デ・ホーホ。「家庭の良識」をテーマとした一連の作品は、心をほんわかさせるようなオーラを放っていました。私には合っていた、というべきか。いや確かにフェルメールは「すごい画家」だなと思いましたが、でも、決して、「フェルメールだから」すべての作品がすばらしい、という訳でもないような気がしました。要するに、「好き嫌い」の問題ですね。

“フェルメール・フリーク”ならずとも、今回の展覧会はとても興味深いものでした。こうして、ホンモノに触れているうちに、知らず知らずのうちにフリークになっているのかもしれませんね。

夏休みとあって、会場にはメモを片手にした子どもたちの姿も多く見られました。宿題かなんかでしょうか。日常的にこういう「ホンモノ」に触れられる都会の子どもたちが、ちょっとうらやましくもありました。


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