カクレマショウ

やっぴBLOG

関節話法

2005-04-29 | ■本
職場にしょっちゅう指の関節をポキポキ鳴らしている人がいます。けっこういい音がします。私は関節が鳴らないほうなので、関節で音が出ること自体、とっても不思議です。

筒井康隆に「関節話法」という短編小説があります(『宇宙衛生博覧會』所収)。「間接話法」ではなく、「関節」話法です。

マザング星という惑星では、「関節話法」つまり、全身の関節を鳴らすことによって会話が行われています。マザング星は地球とよく似た惑星で、古くは地球人と同様に口からの発声で会話をしていましたが、いつのことからか「声を出して喋るのがたいへん下品な習慣である」とされ、関節で会話をするようになったということです。手の指、足の指、首、足首といった関節を鳴らし、それを組み合わせることで単語や文を伝えるのです。

たとえば、「右手親指の第一関節をぽきりといわせてから足首をごき、と鳴らし、左手中指の第二関節をこきりとやる」と、これは「思いやりのある人」とか「話のわかる人」という意味になります。ところが、関節話法の難しいところは、もし「途中で足首が鳴らなかったとする」と、「馬鹿」という意味になってしまう、つまり関節が一箇所でも鳴らなければまったく別の意味や反対のことを示すことにもなってしまう点です。

そんなマザング星と地球との間に貿易が開かれることになりました。主人公「おれ」は、職場でいつも関節を鳴らしているのに目をつけられ、「星務省」から初代大使に命じられ、不本意ながらマザング星に赴任することになります。

マザング星で「おれ」は意外なことに気づきます。そもそも「口に出す言葉」が存在しないため、街全体が静かであるのは当然としても、たとえば二人で会話している時に間接話法だと「話に割り込む」ことが基本的にできないため、極めて礼儀正しく洗練されたコミュニケーションの形態が見られるということです。

赴任前にはマザング人の教師からみっちりと関節話法の訓練を受けてきたとはいうものの、そもそも関節だけが非常に発達しているマザング人とは体の構造からしてちがいますので、マザング語の関節話法は非常にむずかしいものでした。歓迎会でのスピーチなどは、こんな感じに聞こえたようです。

「そのひとつの大臣が、ただいまご紹介にあずけたそれはこれの私、地球人大使です。私は喜ぶこの星来たことにあります。これは関係する地球マザングのひとつの貿易は、それにおける大変始まったことである。だから私は来たらよかったのです。しかしながらすぐにその一匹の大使は死なない。…そこでこれのひとつのお願いは、なるべく早くこのひとつのマザングの死ぬようになりたいのは、そのひとつの皆さまが乞います。ご協力です。…もしおかしな死にかた、どうぞ私に注意したらできてください。」

「喋る」がすべて「死ぬ」になっています。これは右手小指の第二関節が鳴らなかったせいです。それでも、聞く側があたたかく受け入れる心を持っていれば、なんとなく意味が通じるようです。

さて、ある時マザング星からの貿易船が地球の反連合政府軍によって拿捕されるという大事件が起こります。マザング星人は「乗組員の安全さえ保障できないような星」とは交易できないとかんかんです。マザング星からのウラニウム輸入を続けたい連合政府は、「おれ」になんとか政府閣僚を説得するように命令します。さもなければ一生地球に帰ってこられないという脅し付きで。

「おれ」はあわてて閣僚会議に乗り込み、説得を試みます。焦っているので、うまく関節が鳴らない。「星務省」を「洗面所」と間違え、「船」という単語が出せなくなり、支離滅裂な演説になっていきます。おまけに、「地球でもそうだが、罵りやすい無礼なことばというものには短いことばが多く、鳴らすべき関節音が鳴らないとそのことばは当然短くなり、敬語やていねい語が一転して罵言に変化してしてしまう」ため、しだいに無礼な言葉、卑猥な言葉のオンパレードになっていきます。

「その誠意、血を出す。地球政府も鬼ばかりで、温かいですか。あるある。ないのはそれです。あたり前の裸です。それはひとつの何もないか。あるある。みんな涙をちびるからそれぐらいです。持っていますので心配はなく、お前らみんな馬鹿。われわれの見ていないのだからひとつの言い方は先に決めたらいけない。こら。これはこんにちはです。失礼が、今は喋ると馬鹿に近い」

説得どころか、これじゃめちゃくちゃです。さすがのに総理大臣の顔色も変わってきました。関節を酷使しすぎた「おれ」は左肩を脱臼し、右手首の関節がはずれ、股関節もはずし、倒れてしまいます…。

オチは書かないでおきますが、入院した「おれ」の病名は「言語障害」だったということです。

この小説を初めて読んだのは電車の中でした。「おれ」の必死さと出てくる言葉のギャップがあまりにもおかしくて、笑いをこらえるのが大変でした。

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2 コメント

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え? (おぃおぃ)
2008-09-09 10:40:20
ちょっと内容書きすぎですよ・・・
新神戸オリエンタル劇場10/5 (磯っち)
2008-09-26 22:23:52
筒井先生の朗読劇があります。

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